「大阪都構想」の実現を掲げる地域政党・大阪維新の会は大阪府政・大阪市政における政権与党だが、従来の既得権者やメディアからの反発はいまも根強い。その中で4月7日に投開票が行われた「大阪ダブル・クロス選挙」では、事前予想を上回る圧勝を飾った。なぜ大阪維新は強いのか。同党の創設者である橋下徹氏が一部想像を交えつつ、内幕を明かす。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(4月9日配信)から抜粋記事をお届けします――。
大阪ダブル選挙で当選確実となり、握手する地域政党「大阪維新の会」の松井一郎氏(左)と吉村洋文氏=2019年4月7日午後、大阪市中央区(写真=時事通信フォト)

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組織マネジメントの要諦、これが大阪維新の会「勝利の方程式」だ

蓋を開けてみれば、大阪維新の会の完勝だった。知事、市長の当選のみならず、府議会議員選挙、市議会議員選挙も歴史的な大勝だった。府議会は過半数確保。大阪市議会は単独政党による過半数確保が難しい24(行政区)もの中選挙区において、過半数まであと2議席の圧倒的第一党。堺市議会は全員当選。自民党は歴史的な議席減に陥った。

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この大阪維新の会の選挙の強さは何か。ここには組織マネジメントの要諦が詰まっている。「戦略と実行」。使い古されたキーワードであるが、大阪維新の会はそれを学者のように机上の論としてこねくり回すのではなく、選挙の勝利という目標に向かって実践したのである。そして見事に結果を出した。そこで今回の大阪維新の会の勝利への方程式を、学問的・評論的抽象論ではなく、実例を基にした実践論として解説していきたい。

なお実例を挙げるにあたって、ドキュメントタッチで書いていくが、これは登場人物の心境を推察したり周囲からの情報を収集したりして、あくまでも僕の想像の中でフィクションとして構成したものだとご理解頂きたい。登場人物は皆、政治家たちであり、今回の選挙戦という公共にかかわる事柄について、その戦略を分析・評価するという公益目的で論じる場合には許容される範囲で書いたつもりである。文責は全て僕にある。なお、登場人物の敬称は略します。

「ニューリーダー誕生」~ダブル・クロス選決断の瞬間~

(以下の場面描写は筆者・橋下による想像です)

「だからクロスなんですよ」

大阪市長・吉村洋文がそう一言、言い放った時に、大阪府知事・松井一郎は一瞬息をのんだ。

古民家を利用したおでん屋の一室。昔の三畳間の真ん中に気取りのない低めの木机が鎮座している。それを挟んで向かい合って置かれた少し足の付いた座椅子に2人は座っていた。お互いの酒臭い息が吹きかかる至近距離に、かれこれ2時間、2人の顔が向き合っていた。机の上には、松井が好むコロ(クジラの皮)・柔らかタコなどのおでん盛りや、ウルメいわしの丸焼き、エイひれ炙りの皿が乱雑に置かれていた。松井はいつものイモ焼酎水割りを片手にウルメいわしをかじっていたが、その手が一瞬止まった。

「その手があったか。それや!」

松井は声を出さずに、腹の中でつぶやいたが、松井・吉村の間柄では、その一瞬の沈黙が完全なる合意を意味していた。

2019年4月7日の、大阪府知事・大阪市長のダブル・クロス選挙、そして大阪府議会・大阪市議会議員選挙における大阪維新の会の大勝利は、この吉村の一言から始まる。それは吉村洋文という大阪維新の会のニューリーダーの誕生の瞬間でもあった。

そして選挙戦序盤、

「これをやられたら危ないですね。敵陣が一気に勢いを増しますよ。少し対応を考えましょう」

吉村は選挙運動を終えた深夜に松井にメールをした。

「吉村、よく考えとんな」

松井は、吉村のニューリーダーの資質を改めて感じた。

実は反都構想の敵陣には勝利の大きなチャンスがあった。しかし敵陣はそれに気付かず、あるいは気付いたとしても戦略の方向転換をすることができず、そのまま負けに至った。

これも組織マネジメントの反面教師として、非常に勉強になる教材である。逆に、大阪維新の会側は、敵陣が勝てるパターン、すなわち自陣が負けるパターンをしっかりと認識して、それに対する対応策をしっかりと用意しており、ここも非常に勉強になる教材である。

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