中東情勢の影響に医療現場から不安の声が上がっている。医師の木村知さんは「問題は、医療資材の原料、ナフサ供給への影響だ。高市首相は『半年分以上の確保がある』と安心を促すが、この発言こそが医療従事者の不安の根源だ。医薬品の製造プロセス、時間軸をわかっている人の発言とは、とうてい思えない」という――。

「ナフサ危機を煽った人は責任を取れ」

トランプ大統領による「2週間の条件付き停戦」提示、そしてパキスタン仲裁による「即時停戦合意」の報道で、急転直下、最悪の衝突は回避されたと、市場も楽観ムード、SNSではナフサ危機を煽った人は責任を取れとの声まで上がりましたが、事態はやはり楽観視できるものではありませんでした。

交渉目前のイスラエルのレバノン攻撃によって、先行きは再び混とんとしてしまったからです。

政府は年明けまでは「日本全体としては大丈夫」とのアナウンスを繰り返しますが、歯科医院からは医療用グローブの入荷が滞りはじめているとの声が、総合化学メーカーからは錠剤・カプセル包装シートの値上げが発表されました。

政府の不安払拭目的の発信こそが、こうした現場における「目詰まり」の実感と乖離しているため、かえって不信感をつのらせる皮肉な悪循環となりつつあります。

安心したいのは誰もが同じではありますが、これから始まる物理的な供給遅延が、私たちの日常生活、とりわけ医療現場に不可避な影響をおよぼすことにも、しっかり目を向けて対策しておかねばなりません。

とくに懸念されているのが前回の記事でも取り上げたプラスチック製品をはじめとした医療資材です。

しかし医療を支えているのはこれらの物品だけではありません。直接人体に投与される医薬品も、今回の情勢悪化を受けて影響を受ける可能性もあるのです。

そもそも中東情勢の影響以前に、わが国の医薬品の供給体制はここ数年不安定をきわめていました。

医療機関を受診して、いつもの内服薬の処方を希望したところ、「いつもの薬は現在欠品なので、代替薬で処方します」と言われたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

処方された薬
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※写真はイメージです

「2200品目以上が供給難」という衝撃データ

先日も、大手ジェネリック医薬品メーカーから、医薬品の限定出荷および出荷停止のアナウンスが医療機関あてに発出されました。

その原因については昨今の供給不足と想定を上回る需要の増加としかされていませんので、中東情勢が直接の原因と決めつけられませんが、今後、戦争がさらに長期化すれば、医薬品の欠品にさらなる悪影響がおよぶ可能性はきわめて高くなると考えられます。

事実、2026年4月初旬の日本製薬団体連合会(日薬連)による最新データによれば、全医薬品の1割を超える2200品目以上がすでに供給難に陥っています。そこにさらなる追い打ちをかけるのが、今回の危機による原材料調達の行き詰まりなのです。

以前、私は中国との関係悪化にともなって薬剤の原薬の調達が困難となるリスクを記事で指摘しましたが、今回の中東情勢において新たに懸念される問題は、医薬品の薬剤成分の合成や製造だけが欠品の原因になるとは言えないことにあります。

それはMaterials-driven shortage、すなわち「周辺資材の調達困難による欠品」といわれる現象による医薬品の調達危機です。