「薬そのもの」だけでは使えない

「医薬品」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、錠剤や注射液だろうと思います。

しかしこれらが製造され製品となって市場に流通し各医療機関に届けられるにあたっては、当然ながら、薬剤が汚染や劣化しないための包装や容器に封入されている必要があります。

「周辺資材の調達困難による欠品」とは、医薬品の主成分である薬剤自体は製造されても、それを封入する包装や容器が不足することによって、流通困難すなわち欠品となる事態のことを指します。

つまり「中身はあっても外側(資材)がないと製品にならない」という事態です。

具体的には、プラスチックやゴムの原料となる石油化学製品の供給網が寸断されることによる、「輸液バッグ」「プラスチック製のPTPシート」「吸入器の外装」「シリンジのプランジャーゴム」「プレフィルドの注射剤のシリンジ」といった資材の不足があげられます。

輸血パックを手にする医療従事者
写真=iStock.com/ozgurdonmaz
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これらの資材が不足した場合に、すぐ代替品が調達できるかという点も問題を複雑化しています。

医薬品の場合、薬機法(医薬品医療機器等法)に基づいて、承認事項として容器や包装の規格が登録されています。

つまり資材一つ変えるだけでも、この承認事項の変更にあたるため、「医療用医薬品の承認事項一部変更承認申請」(以下、一部変更承認)という厳格な手続きが必要になるのです。そしてそれには相当の時間を要します。

「原料半年分」が安心につながらない理由

「資材が足りないなら他のもので代用すればいい」

そう思われるかもしれません。

しかし医薬品の世界ではそれが通用しないのです。

容器や包装の材質一つを変えるだけでも、薬の安定性を証明する1年以上の試験データが必要となり、さらに行政の一部変更承認を受けるには、準備を含めれば年単位の月日を要するのが通例だからです。

この「時間の壁」こそが、周辺資材の調達困難による欠品の真の恐ろしさと言えます。

政府は2026年4月7日現在、ナフサの備蓄について「輸入分と国内精製分で4カ月分を確保しており、中東以外からの輸入倍増で半年以上の供給が可能」との見解を示しています。

くわえてネットや一部の報道番組において供給不安を訴えるエネルギーの専門家の解説を「誤情報」と断じ、国民に冷静な対応を呼びかけています。

こうした政府の姿勢は、買い占めなど過剰なパニックをおこさせないという一点においては理解できなくもありませんが、現場の声をきちんと把握し、現状について正しいデータとともに納得できる説明をおこなわないことには、かえって疑念を引き起こすもととなり得ます。

薬はたんなる「化学物質の塊」ではない

医薬品製造における「周辺資材の調達困難による欠品」を考えた場合、政府の現在の説明における「原料の量」と「医薬品製造の特殊性」とのあいだには、深刻な認識のギャップが存在すると言わざるをえません。

医薬品はたんなる化学物質の塊ではなく、厳格な基準にもとづいて、容器や包装と一体となって承認されているものです。

たとえナフサという「川上」の原料が確保されても、それを医療用プラスチックや特殊ゴム栓といった「川下」の精密な医薬品資材に加工する特定のラインが物流停滞やコスト高騰で止まれば、製品化は不可能になるのです。

さらに、先述したように、資材の材質や形状を少し変えるだけで、年単位の時間を要するという規制の壁も立ちはだかるのです。

つまり「半年分の原料があるから安心」という政府の論理は、この「代替のきかない時間的制約」を完全に見落としていると言わざるをえないのです。

成分はあっても、それを封じ込める「ちいさなプラスチック製品」、そのひとつがないだけで命に直結する薬が届かなくなるという事態。

医薬品製造におけるこの構造的脆弱性こそが、今私たちが直面しつつあり、政府が真摯に向き合い対処すべき、「周辺資材の調達困難による欠品」のリスクなのです。