さらに“物流崩壊”の問題も…
さらに医薬品の物流に目を向ければナフサの有無とは無関係な問題も無視できません。
それは「コールドチェーン(低温物流)の崩壊」です。
国際救済委員会(IRC)は先月プレスリリースを発表、「スーダンでの人道支援を目的とした約13万ドル相当の必須医薬品が現在ドバイで足止めされており、緊急を要する地域への配送が遅延している」事例を提示して、中東のハブ空港が軍事・政治的理由で制限されることによる空輸ルートの断絶への危機感を表明しました。
厳密な温度管理を必要とする医薬品は、迂回ルート輸送による品質劣化に弱く、こうしたコールドチェーン輸送の崩壊によって数万人規模におよぶ薬剤の実質廃棄がおこなわれかねない事態となっているのです。
日本にとっても、文字通り「対岸の火事」ではありません。
日本が欧州に依存しているインスリンや最新の抗がん剤、ワクチンといった「バイオ製剤」の多くは、厳密な温度管理を必要とするものだからです。
即時停戦によって空路の安全性は戻るかもしれませんが、一度途切れたコールドチェーンが、即時にもと通りになるわけではありません。滞留した薬剤の品質再検証や、混乱した物流ダイヤの正常化も、政治の決断とは次元がことなるものだからです。
「原油がある」は医療の安定に直結しない
即時停戦によって、ナフサの問題だけでなく、こうした医薬品の絶対量不足までもすっかり回避されたと楽観視、さらにこれらの懸念を「デマ」や「煽り」と決めつけることこそ危険です。
もちろん「いたずらに不安をあおる」ことは絶対に避けねばなりませんが、政府としてあらゆる対策を講じるというのであれば、あらゆる状況を想定して、丁寧な情報発信を国民にたいしておこなうべきではないでしょうか。
高市首相はXで「説明」していると国会で答弁していますが、誰もが高市首相のアカウントをフォローしているわけではありません。
政府は代替調達のグラフを提示して「年を越せる」と説明していますが、それはあくまで原油の総量の話に過ぎません。医療現場が求めているのは原油のバレル数ではなく、今まさにラインが止まりかけている医療用プラスチック資材の具体的な供給確約です。
供給不安が解消されないままでは、重症者や緊急手術に備えるために資材を節約しようと考える医療機関も出てくることでしょう。
さらに重症者や緊急手術を待つ患者さんについても、「序列化」すなわち「命の選別」が余儀なくされる事態さえも引き起こされかねません。
医薬品供給という「待ったなし」の事案に対し、ただSNSで安心を説くのではなく、代替資材の承認手続きの簡素化といった特例措置をはじめとした実務的な方策を急ぐこと。
そして主体的かつ積極的に記者会見を開き、たしかな数字とともに「説明」をおこない、国民の疑義に真摯に応えること。
現在そのメッセージがきわめて不足していることこそが、現場の不安の根源であることを肝に銘じてほしいと思います。
この事態を根本的に解決し、物理的な供給網を正常化させるには、先行き不透明で不安定な一時的停戦ではなく、恒久的な和平へと定着させるしかありません。
アメリカとイラン双方にパイプのある日本こそがその橋渡しを担い、平和国家として国際貢献を果たすべきです。
高市首相には、2週間というこの貴重な猶予期間にこそ、全世界の人類のために働いてもらいたいと思います。



