あえて「体験」の機会をつくることで、知識記憶をエピソード記憶に変えることもできます。名前なら相手の前で発音してみるのです。

記憶術でよく使われるのが、イメージを利用してインパクトを高める方法。たとえば「本田さん」ならホンダの自動車、「久保田さん」ならクボタのトラクターというように、こじつけでも何でもいいので、名前に何かのイメージ映像を結びつけて覚えてしまうのです。バカバカしかったり突拍子もなかったりするイメージのほうが、インパクトがあって効果的です。

いろいろやったけれどそれでも忘れてしまったというときは、空間記憶(場所の記憶)を利用すると思い出しやすくなります。

人間の脳は相対的な位置関係を記憶することが得意で、会議のとき右隣に誰がいたとか、どの方向に誰が座っていたといったことはよく覚えています。名前を忘れてしまったとしても、前の会議で会った人なら、「あのときあの場所に座っていたのは、どの人だったか……」というように、生の情景と位置関係をきっかけに記憶を探るとよいでしょう。

また、さりげなくスマートフォンでその人とのメールやメッセージのやりとりをチェックして名前を探すという手もあります。

ホテルマンの例でもそうだったように、「記憶力がいい」と言われる人ほど、「人は忘れやすいもの」と自覚し、大事な情報をしっかり記憶するための努力を続けているものです。「名前の記憶も試験勉強も、努力に勝るものはない」と胸に刻んでください。

宇都出雅巳(うつで・まさみ)
トレスペクト教育研究所代表
「記憶」の専門家。1967年生まれ。東京大学経済学部卒、ニューヨーク大学でMBAを取得。コンサルティング会社、外資系銀行などを経て2002年に独立。『「名前が出ない」がピタッとなくなる覚え方』ほか著書多数。
(構成=久保田正志 写真=津田 聡、amana images)
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