なぜ日本人は、名前を覚えにくいか
「この人の名前、何だっけ?」
以前会っているはずなのに、名前がどうしても出てこない。誰でも1度はそういう経験をしているのではないでしょうか。
私たちの脳で短期的な記憶を司る「ワーキングメモリー」は容量が小さく、ある瞬間には覚えていた情報も、他に注意が向いたとたんに上書きされ、記憶から飛んでしまいます。つまり人は基本的に「忘れる生き物」であり、細部まで鮮明に覚えているほうが珍しいのです。
なかでも人の名前は、忘れてしまいやすい情報の1つ。それは人名が基本的に記号であり、その人の特徴とか現在の地位などとは関係がないからです。
しかも、うろ覚えでは役に立たないのが名前です。相手の出身地なら、大阪と神戸を取り違えても失礼ではないのに、もし木下さんにうっかり「山下さん」と呼びかけてしまうと気まずいですよね。ちゃんと名前を覚えていないと、「この人は私に興味を持っていないんだな」と取られてしまいます。
では、どうやって覚えればいいか。
記憶の基本は「繰り返し」。人間の脳は、ある情報を繰り返し入力されるとそれが重要な情報だと認識し、記憶にとどめるという性質を持ちます。名前を覚えるのも、いかに繰り返し脳に入力するかがポイントです。
5000人の客の顔と名前を覚えている、というホテルマンがいます。この人は特に天才的な記憶力や独特の記憶術を持っているわけではなく、「名前と会社名を書いたノートをつくって、それを繰り返し読み込む」という地道な努力を積み重ねているそうです。
名前を脳に入力するためには、できるだけ口に出して名前を呼ぶことです。実際、相手の名前をよく覚えている人は、意識して相手を名前で呼びかけています。
その点で日本人には不利なところがあります。欧米人のように互いにファーストネームで呼び合うのではなく、代わりに「専務」「部長」と役職名で呼ぶ習慣がありますし、日本語では主語を省略するのが一般的です。そのため、ふつうの日本人には相手の名前を繰り返し口にする機会が相対的に少なく、だから名前を覚えられないのです。
その習慣を変えてみたらどうでしょうか。最初に会ったときから名前で呼びかけるように心がければ、自分の脳に相手の名前が刷り込まれます。向こうも名前で呼びかけられて嫌な気はしないでしょう。
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