さらに、パリHECビジネススクールのカプフェレ教授らは、著書『ラグジュアリー戦略』(筆者訳)の中で、「マーケティングの逆張りの法則」として18項目を挙げています。その中から、いくつか抜粋して紹介しましょう。

・「ポジショニング」のことは忘れろ、ラグジュアリーは比較級ではない……マーケティングでは競合相手との差異化によるポジショニングが重視されますが、それはいずれコモディティ化を招きます。ラグジュアリーに重要なのは独自性であり、自らのアイデンティティに忠実であることです。

・製品は傷を十分に持っているか?……製品は完璧ではなく、むしろ傷(欠点)を持っていることが重要です。機械式時計の愛好家がゼンマイを巻くことを楽しむように、「あばたもえくぼ」で魅力に高めるのです。

・顧客の要望を取り持つな……顧客は王様ではありません。いくら顧客の要望でも、ブランドアイデンティティを脅かすようなことをしてはいけません。

・熱狂者でない奴は締め出せ……顧客を他のブランドから横取りする必要はありません。ブランドの価値に魅力を感じない人は除外していいのです。

・増える需要に応えるな……販売量を増大させるのではなく、稀少性を売りにすべきです。

・顧客がなかなか買えないようにしろ……ラグジュアリーは手が届きにくければ届きにくいほど、ますます欲しくなるものです。

・売るな……売ろうとせずに、売り上げ減を恐れず、むしろ覚悟することが、顧客と強い絆を築くうえで重要です。

・工場を移転するな……ルイ・ヴィトンはフランス製、BMWはドイツ製など、その地域に根ざしていることが、ラグジュアリーの価値を高めます。

こうしてみると、ラグジュアリー戦略では、マスマーケティングとことごとく逆のことをすればいいということがわかります。日本のものづくりには、品質の高さが海外で評価されている製品が多くありますが、高い値付けができないなど、マーケティングで失敗しているケースがほとんどです。ラグジュアリー戦略を学ぶことで、日本発のラグジュアリーブランドが数多く登場することを期待しています。

長沢伸也(ながさわ・しんや)
早稲田大学ラグジュアリーブランディング研究所長、早稲田大学ビジネススクール教授
早稲田大学理工学部卒業。同大学院理工学研究科博士前期課程修了。工学博士。専門はデザイン&ブランドイノベーション・マネジメント。編著・訳書に『高くても売れるブランドをつくる!』『日本の“こだわり”が世界を魅了する』『ラグジュアリー戦略』など。
(構成=増田忠英 写真=AFLO)
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