医学部入試問題と同じ構造がある

柔軟性のない今回のプログラム制は、若い医師たちの人生を管理し、奴隷化してしまいます。この制度では、数カ月ごとの異動が30歳を超えて続く可能性があります。この間多くの人は結婚し子供を持つでしょう。

一体、どのタイミングで子供を持てるのか、数カ月しかいない研修医の妊娠出産を受け入れられる医療機関がどれほどあるのか、どうやって夫婦とも働いて、転々とする研修生活で保育園を確保できるのか、小一の壁は誰がカバーするのか等々、医師にも当たり前の人生があるということに対する想像力が欠如した制度です。医学部の入学試験で、365日24時間働ける現役の男性医師を欲したのと同じ構造がここにもあります。

これに対して機構は、妊娠出産等に対応するために「カリキュラム制」も整備していると言っています。しかし、1年目の2018年はカリキュラム制を選択する人がほとんどいませんでした(内科、外科、産婦人科、脳外科、眼科、皮膚科全て0)。機構の今村聡副理事長は、カリキュラム制をもっと周知させていくと言っていますが、事の本質はそういうことではありません。

子育て中の女性医師の門前払いも発生

結婚、妊娠、出産、子育ては、若手の医師全てに関わってくることであり、最初から、「妊娠するからカリキュラム制」などと分けられるものではないのです。プログラム制であっても柔軟性がなければ、そして働き方改革とセットでなければなりません。さもないと、今以上に女性医師は子供を持つ選択肢が奪われた状態でキャリアを目指して邁進するか、専門医になるのを諦めてしまうのかの二者択一になってしまうでしょう。子育てに積極的に関わりたい男性医師にとっても同様です。必要なのは多様な選択肢です。

残念なことに、極めて重要なこの点に関して機構の理事の方々が問題点として捉えていたかどうかさえ疑問です。現在、機構には理事が25人いますが、女性は元宇宙飛行士で心臓血管外科医だった向井千秋さんただ一人です。理事は2年ごとに大幅に入れ替わっていますが、毎回ご自分の子育ては妻に任せっきりだったと思われる同質の男性集団であり、子育てしながらキャリアを積むことについて、想像力を持って具体的な制度設計をしてきたとは思えません(言いすぎでしたら反論をお待ちしています)。

また受け入れ側の基幹病院も同様な背景を持つ方々が率いている(主に大学病院の教授)ので、子育てしながらプログラム制を希望した女性医師の門前払いという、憂えるべき事態がすでに報告されています。それにも関わらず、機構はそれを放置しているのです。このように幾重にもわたり若い人たちの芽をつぶす深刻な事態を招いているのが実情です(参考:「Vol.108 医療崩壊を招く専門医制度 ~日本専門医機構の欺瞞 ある女性医師の事例~」)