医師の「偏在対策」は別の問題

第3の理由は、この制度に医師の「偏在対策」を入れてしまったことです。繰り返しますが、専門医の「質」の問題と偏在対策は全く別物であり、機構がここに手を出すべきではありませんでした。今の機構の事務処理能力で偏在対策まで担うのも無理でした。その挙げ句が、現在の散々な結果です。

影響の大きい制度改革でありながら、なぜこのような稚拙な進め方をしたのか。それは要所要所で厚労省がお墨付きを与えてきたからです。循環型プログラム制、専門医の種類を基本19領域にすることなど、どれも変えられない憲法のように扱われています。いずれも厚労省の「専門医の在り方に関する検討会」で決められたからこそ、金科玉条のように扱われてしまいました。

そして医療界の手に余るとわかると国の関与が強まる、という悪循環です。世間知らずの医療人とでもいいましょうか。医療界が多様性を排除してきた当然の帰結かもしれません。

専門医制度は本来の立ち位置に戻るべき

混迷を深める機構の理事長を引き受け、「あえて火中の栗を拾った」とおっしゃる寺本民生理事長と専門医機構の仕事は「良いプログラムを認定し、それを増やしていく」ことのみのはずです。この期に及んで小手先の改革をしても、傷を深くするだけです。専門医制度は、本来の立ち位置に戻るべきです。

機構はなぜ、「循環型」研修だけでなく、単独研修施設も認めてほしいという要望にゼロ回答なのでしょうか。循環型にこだわる必要などないはずです。そして、偏在対策からはきっぱり手を引いてください。中途半端な関与が、国民の医療を受ける権利にまで影響を及ぼし始めています。

機構には拙速な制度開始により借金を抱えてしまったという問題があります。そのため、早いうちに専門医制度を軌道に乗せて認定料が欲しいのです。でも全体を俯瞰して考えれば、各学会や日本医師会はその赤字をかぶってでも一旦立ち止まるべきでしょう。

それができないのなら、良識ある学会は機構から退会し、機構を解体させてください。この制度の開始により今まで各学会が独自に進めていた専門医制度と比べて、何か一つでもプラスになっていることがあるのでしょうか? 専門医の質に関しては、学会がやっていることを追認しているだけです。それ以外の弊害が大きすぎます。

医療界のエスタブリッシュメントは聞く耳を持つのか、厚労省はどうするのか、正念場だと思っています。

坂根 みち子(さかね・みちこ)
医療法人櫻坂 坂根Mクリニック院長
筑波大学医学専門学群卒。MD,PhD,循環器専門医。
循環器内科医として約20年勤務ののち、2010年10月つくば市に開業。モットーは必要な人に必要な医療を。開業半年後に東日本大震災被災。これをきっかけに医療問題を発信するようになる。2014年4月1日「現場の医療を守る会」世話人代表。2014年日本医療法人協会 現場からの医療事故調GL検討委員会委員長。
(写真=iStock.com)
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