繰り返したM&Aの代償

では、何がライザップの営業利益をかさ上げしているのだろうか。それは「負ののれん」である。「のれん」とは会計用語で、「正ののれん」と「負ののれん」の2種類がある。一般的には正ののれんになることがほとんどなので、単に「のれん」と言えば正ののれんのことを指す。

のれんと聞くと、まずお店の軒先にかかっている布製の暖簾(のれん)のことが頭に思い浮かぶと思うが、会計上ののれんの語源もここから来ている。のれんの意味は、ブランド、技術、販売網、従業員の能力などの企業が保有する目に見えない価値の総称のことである。このような無形の価値は、BSには載らない資産で、M&Aによって初めて顕在化する資産だ。

つまり、買収金額が、買収する会社(被買収会社)の純資産(IFRSでは資本と表記)の金額を超過した分が、のれんとして認識される(図表6参照)。なぜ純資産より高い金額で買収するかというと、被買収会社には潜在的な価値(のれん)があると思うから、買収会社は高いお金を出してでも買う。額面に上乗せした金額それこそが、目に見えないブランド価値などの「のれん」に相当する、というのが会計上の考え方だ。

「のれん」による営業利益のかさ上げ

M&Aの際には、シナジー効果を前提に潜在的な成長力を見越して企業買収するのが通常である。そのため、買収金額が純資産を上回ることが多い。この結果生じたのれんが「正ののれん」で、逆に、買収金額が純資産を下回った結果生じたのれんが「負ののれん」となる。

・「純資産<買収金額」→正ののれん
・「純資産>買収金額」→負ののれん

負ののれんは、割安で買うことで生まれた差額は“儲け”と同様なので、日本基準では特別利益に計上するルールになっている。IFRSにおいても考え方は同様だが、前述のとおりIFRSには特別利益という区分がない。そのため、負ののれんは営業利益に加算される。ライザップは割安での企業買収を繰り返してきたため、負ののれんが多額に計上され、結果的に営業利益がかさ上げされていたのである。