“EV”バブルの中国技術者の囲い込み

現地採用の給料は、「国や職種によって様々ですが、一般的なホワイトカラーとしてインドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムなどで仕事をする場合、初任給は14万~20万円程度になる場合が多い。シンガポールや香港では日本並みかもう少し高くなることもある」(森山氏)。日本や海外での就業経験が長く、希少な技術を持って重要なポジションを担う人には、月給50万円以上が提示されることもある。

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例えば中国の自動車産業は、“EVバブル”に沸き、中国EV企業が日本人のエンジニアを囲い込もうと動いている。年収1000万~2000万円で採用するところもある。自動車産業に限らずIT関係や建設機器などはエンジニアの求人が多い。ある大手建機メーカでは、定年後でも住居付きで手取り年収850万円で採用するケースもある。

「うちの上海オフィスにも日本人エンジニアの求人が多く来ています。中国の自動車会社はエンジニアなら定年前後の人でも採用します。年2回、帰国手当が付くところもある」(内藤氏)

ところが中国(上海)でもエンジニア以外の事務系、営業系では25万~30万円程度に下がる。

「英語で交渉できるスキルを身につける」

転職希望で人気のある国・地域は「シンガポール、香港、中国の順で、タイ、マレーシア、インドネシアが同程度、それにフィリピン、カンボジア、ミャンマーと続きます」(森山氏)。

実際に転職した人の生活ぶりはどうなのか。「収入は日本にいた頃に近い約500万円です。海外で働く、寿司職人になる、という2つの目的が叶えられ、満足しています」と語るのはリクルートの元営業マンから、シンガポールの日系現地法人の寿司チェーンに寿司職人として転職した大日向哲平氏。「英語圏であることがシンガポールを選んだ理由です。できれば英語圏の別の国でも修業し、ステップアップをはかりたい」。

転職人気の高いマレーシアで、現地企業の食品商社で日本食材の輸入を手がけ、マネジャーを務める吉井恒夫(仮名)氏は、日本で監査法人や物流会社で働いた。「年収は400万円です。マレーシア人マネジャーで300万円、ローカルスタッフだと120万円程度なので、優遇されています。物価は言われているほど安くありませんが、住居はクアラルンプール中心地の高層マンションのツーベッドルームで、家賃は10万円です」。

同じマレーシアの現地採用で、日系総合商社の機械エネルギー部門で輸出入を担当する廣瀬拓郎氏は、都内のITベンチャー企業で働いていた。「ビジネスで英語を使って交渉事ができるスキルを身につけたい」とマレーシアに転職。「給与は月8000RM(約22万円)、日本に居たときの3分の1です。贅沢はできませんが、妻が働かなくても暮らしていけるし、新しい経験に対して絶対的価値を見出しているので苦にはなりません」と話す。

目的を持った海外転職は、日本文化とは違った環境の中で仕事の経験もでき、挑戦のしがいのある職場が得られるのではないだろうか。