公明党を騙して国民投票に持ち込む可能性はなくはない

安倍首相は今秋の臨時国会に自民党の改憲案を提出して、改憲案の発議を実現したいという。改憲案の国会提出というのは、通常の法案提出とは違っていて、衆議院で100人、参議院で50人の賛同が必要になる。これは自民党単独でも十分にできるだろう。

国会に提出された改憲案はまず衆参両院の憲法審査会で審査される。両院とも過半数の賛成で可決されれば、本会議に提出。さらに衆参の本会議でそれぞれ3分の2以上の賛成が得られれば可決、国会が憲法改正を発議して国民投票にかけられる。国民投票で過半数が賛成すれば憲法改正案は成立する。

「衆参本会議で3分の2以上の賛成」という発議要件は相当ハードルが高い。しかし「自主憲法制定」が党是の自民党に在籍する以上、自民党議員の多くは賛成せざるをえないし、安倍首相に忠誠心を示さなければ「次の選挙で公認を外されるかもしれない」という恐怖もある。公明党を騙くらかして国民投票に持ち込む可能性はなくはないと思う。

新しい9条でも南スーダンに自衛隊を送り込むつもりなのか

しかし国民投票にかければ国民的議論が巻き起こって、否決される可能性が高い。各種世論調査を見ていると改憲の是非について世論は割れているが、「安倍政権下の憲法改正」には抵抗感が強い。国民投票は国会発議後、60~180日以内に実施される。その間、国会やメディアで国民的議論がなされて、改憲案は揉まれることになる。自民党の改憲案は9条に自衛隊を明記したいという安倍首相の意向が色濃く反映されたものになるだろうが、その内容、本質が厳しく問われるのだ。

その際、これまでの自衛隊の海外派遣の実績と自衛隊が参加していない世界の海外派兵の事例を重ね合わせて整理するといい。

たとえばドイツはNATOの一員として派兵するようになり、アメリカが始めたアフガニスタン紛争では多数の兵士の命を失っている。「自民党の改憲案では、ドイツのようにアフガニスタン紛争に派兵するのか」と迫ったら自民党はどう答えるのか。あるいは“紛失”した自衛隊の日報に「戦闘」と書かれていた南スーダンPKO。明らかに紛争地域に自衛隊を派遣したにもかかわらず、政府はとぼけて安保法制の実績にした。新しい9条の下でも南スーダンに自衛隊を送り込むつもりなのか。

このように1つひとつの事例を丁寧に取り上げて、「これまでの憲法とどこが違うのか説明しろ」と野党やマスコミが攻め立てたら、改憲勢力はとても持たない。従来と変わらないというなら「改憲の必要なし」。そうでないなら「9条改悪」の印象が強くなる。どちらにしても安倍政権下での国民投票は通らない運命にある、と私は見ている。

(構成=小川 剛 写真=AFLO)
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