格安のすみかを求めて難民は「聖地」に集まる
JR蒲田駅、午後7時。夜の改札を抜け、帰宅で駅に向かう急ぎ足の会社員たちの流れに逆らうようにして進むと、繁華街の一角の雑居ビルの4階に、目指すネットカフェはあった。
「ワーキングプア」と呼ばれる人たちの実態を調べるために、最初に訪れたのが東京・大田区。蒲田駅周辺には都内の相場より破格に安いネットカフェが集中し、すみかのない人たちが多く集まる場所として知られている。彼らは蒲田を、「ネットカフェの聖地」と言う。
エレベータが一階に着くたび、大きなバッグや鞄を持った若者や中高年が次々と吸い込まれていく。
ネットカフェはビルの4階と7階から10階までの計5フロアを占め、総席数は210に及ぶ。簡素な造りだが、1時間100円という低価格のため、人気が高いのだ。午後7時過ぎには個室タイプはすでに満室、仕切りのない椅子席も残りわずかだった。
43歳のユウジさん(仮名)は、ここを仮のすみかに使っている。一畳足らずの畳敷きの個室。小さなテーブルにパソコンとテレビが並ぶ。夜になると、テーブルの下に足を伸ばし、上着を掛けて横になる。薄い仕切りで隔てられているだけで、周囲の物音は筒抜けだ。しかも、フロア全体には悪臭が漂っている。
「においがすごくて、僕の中ではこのネットカフェまで落ちたくないというプライドがある。だけど、お金がないときは、仕方がない」
全財産は、財布の中の3900円だけと苦笑する。
関西地方出身のユウジさんは商業高校を卒業後、地元のパン屋に就職したが、音楽好きが高じて半年後にCDショップへ転職。店長にまで昇進したが、会社が倒産。その後は、別のCDショップに勤めたり、東京に出てパチンコ屋の住みこみ店員をしたり、群馬県で高原野菜を収穫する仕事に携わったり。故郷に帰って農協職員になったこともあった。しかしいずれも、会社の倒産や上司との折り合い、通勤の苦労などを理由に長く続かなかった。