僕も世間と反対のポジションを取ることはあるけど、それなりに論理を考えているし、以前と立場を変えたならその理由をしっかり示しているつもりだ。この小林は、以前、ジャーナリストの後藤健二さんが危険地域に入ってその後殺害されたことは自己責任だと主張したらしい(ネットで小林のブログ記事の引用を確認した)。しかし、今回は安田さんを自己責任論で批判する奴は危険地域にも行けないヘタレだと主張する。ネットで確認したことが事実なら、もう小林には相手にするほどの価値はない。
その仕事に価値があるかどうかというのは、最終的にはもちろん周囲が評価することだが、「仕事の価値」は、本人がその仕事をやるかどうかを判断する基準にもなる。
そしてこの「仕事の価値」を決める際に判断を狂わせてしまうのは、先にメリット、つまりプラス面の評価から入ってしまう場合だ。
ある仕事をやろうとしている者は、その仕事にそもそも関心があるので、プラス面を積極的に感じている。だからその仕事の意義、やりがい、価値、社会的なメリットを上げようと思えば、次から次へと無尽蔵にメリットを思い付いてしまう。そしてデメリットのことを十分に考慮することなく、そのまま突進してしまう。
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とにかくその仕事をやるかどうかを判断するには、僕も含めて普通の能力の持ち主なら、先にデメリットをしっかりと考えることが重要。通常は、その仕事に関心があるからこそ、プラス面やメリット面のことしか思いつかず、「もう、とにかくやらなくてはいけない」とはやる気持ちで頭がいっぱいになってしまう。それに加えてプロフェッショナル意識が強い仕事だと「社会正義のためにとにかくやらなくてはいけない」と拍車がかかってしまう。
だからこそ、まずは冷静にデメリットをしっかりと考えなければならないんだ。危険地域に取材に行く価値は認める。しかし、今回の安田さんの取材に伴うデメリットは何か。このデメリットも踏まえた上で、なお危険地域での取材の価値があると判断したのか。そのときに価値を認めた取材の目標はどのようなものだったのか。
ジャーナリストという職業が特別の職業ではなく、普通の職業として仕事の中身を淡々と評価しなければならないとすれば、今回の安田さんの最初のミスは、自分の行動に伴うデメリット面についての考慮が不足していたことだった。
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※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.126(11月6日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【プロフェッショナルの職業論(1)】なぜ僕はジャーナリスト安田純平さん「英雄視」に疑問を突きつけたか》特集です。