地域性・支援性生かし、海外進出も抵抗ナシ

マルナオを支えているものの1つに、地域性があります。新潟県三条市は、地場産業の集積地。家庭用品や家具類のメーカーが集まり、希少原材料を扱ってきた歴史があります。それゆえ黒檀や紫檀といった希少原材料を調達するシステムも確立しており、他の地域に比べて仕入れや製造上の効率に恵まれ、新分野に踏み出す際のハードルを下げています。

本社工場

何より、地域を挙げて中小企業の活路を支援しているのが大きい。

マルナオは、週末の土曜日も工場を動かしショールームも開けて、観光客や一般客を受け入れる「見せる工場」の体制を整えています。通常なら月~金曜操業の製造業にあって、火~土曜という勤務形態。いわば製造業という第2次産業の第3次産業化、観光化です。

この「見せる工場」は、地元自治体や商工会議所などが「産業観光」として後押し。この成功事例はマルナオ以外にも十数社あり、互いの技術を組み合わせたり商品を販売する協力体制も出来上がっています。

顧客との接点づくりという面では、マルナオの「全員営業」も、中小企業であることを強みに変えている点だと言うことができるでしょう。

商談会等には、社長や営業部門の人間にかぎらず、総務畑や製造現場の従業員も出席するという姿勢。彼らは新規顧客の開拓という任務も背負っていますが、買い手の声を生で聞くことで、つくり手自身がニーズの細部を把握できるうえ、「自分たちがつくったものを、この人たちが使ってくれている」といった励みを得ることにも繋がっています。

マルナオの海外展開に関して、三条市と隣の燕市が、そもそも昭和30年代にステンレス製品で日米貿易摩擦を引き起こしたほどの輸出型の産地であることも無視できません。通訳や、海外現地での取引先開拓で協力する企業も地元にありますから、外国語を話すプレッシャーも少なく、現地企業は海外進出に抵抗感がありません。ほかになかなかない地の利だと思います。こうした有形無形のメリットも、マルナオは十分に生かしているのだと思います。

“マルナオ印”大工道具99%から事業を大転換
●所在地:新潟県三条市矢田1
●社長:福田隆宏(1973年生まれ、3代目、立正大学卒業)
●従業員数:20人
●沿革:1939(昭和14)年、初代福田直悦創業。65年(有)福田木工所設立。83年2代目健男社長就任、(有)フクダに改名。2006年隆宏社長就任。09年マルナオ(株)に改名。16年4月期の売上高は1億4825万円(前期比18.7%増)。
森下 正
明治大学政治経済学部専任教授
1965年、埼玉県生まれ。89年明治大学政治経済学部卒業。94年同大学院政治経済学研究科経済学専攻博士後期課程単位取得・退学。2005年より現職。著書に『空洞化する都市型製造業集積の未来ー革新的中小企業経営に学ぶー』ほか。
(構成=小山唯史 撮影=石橋素幸)
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