現在は箸の世界で、使いやすさと風格の双方を追求しています。売り上げはすでに箸が7割。大工道具の利器工匠具のマーケットは大幅に縮小していますが、信頼ある企業として地位を保ち続けています。

新分野を開拓するにも、コア技術をそのまま用いることのできる分野を選んでいるからこそ、これまで手がけてきた大工道具という伝統分野もしっかり守れるわけです。

グローバル化したニッチ市場への特化

マルナオのもう1つの特徴は、中小規模の会社でありながら購買のターゲットを絞ることで、グローバル展開を可能にしている点です。

3代目・隆宏社長は、「全然違うことをやろうとして、毎晩父親と口喧嘩ばかりしていた」と振り返る。

中国料理の箸が、長いうえに持ち手の部分と箸先の太さに大きな差がないタイプであるのに対して、持つ部分から箸先までなだらかに細くなってゆき、しかも重さの均衡が取れているという日本の箸の繊細さは、他に類がないものだそうです。

そもそも箸は日本人にとって、なくてはならない身近な用品。それだけに、品質は幅広いレベルにわたっています。マルナオは、その中でも持ちやすい形状、食べやすく食感を損なわない箸先を加工技術で実現している製品として出色であり、ランクでいえば中の上から上、高級品という狭い市場に特化し、国内ではすでに、都心の百貨店等を中心に高級箸としての地位を確立しています。

しかも箸でありながら、削り直して微調整するメンテナンスを行うといったアフターサービスも手がけ、今や一生ものの商品にしています。

そして、この狭いマーケットへの特化が、海外展開という「横」への拡大を可能にしているのです。

マーケット別に見ると、マルナオの箸の販売量は、現在は国内が95%で、海外はまだ5%にすぎません。

しかし、海外における日本料理の普及に加えて、今はヨーロッパ各地の一流店で日本人シェフが活躍し、彼らのフランス・イタリア料理に箸が添えられることもしばしばです。

そうした時代の流れを、マルナオは逃さず見据えています。特に和食と食材が似ているフランス料理に、先端が細く食感を邪魔しない、口当たりのいい日本の箸がフィットすることから、フランス料理店を中心に高級箸の市場拡大を目論んでいます。

欧州で認められると、国内マーケットへの影響は大きい。海外の5%があるからこそ国内市場が開拓できた。ニッチでも、エリアをグローバルに横展開すれば市場は拡がります。