少子高齢化で労働力人口が減っていくことは20年近く前からわかっていたことだ。しかし、この国は移民政策に正面から向き合わず、本格的な議論を避け続けてきた。

18年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針2018)」で、政府は外国人労働者向けに新たな在留資格をつくり、外国人労働者の受け入れを拡大する方針を盛り込んだ。人手不足が特に深刻とされる農業、介護、建設、造船、宿泊の5業種が対象になると見られ、25年までに50万人の外国人受け入れを見込んでいるという。

これまで日本政府は「移民政策は取らない」という立場を堅持してきたし、「単純労働」の外国人の受け入れを認めてこなかった。今度の新しい在留資格制度では、高い専門性や技能、日本語能力を必ずしも持ってない人材も受け入れ対象になる。その意味では単純労働の外国人労働者に道を拓く可能性もある。これを「門戸開放」とか「方針転換」と見る向きもあるが、骨太の方針には言霊信仰者が政策の立案にこだわったとしか思えない「同制度は移民政策とは異なる」との但し書きが付いているのだ。

外国人約128万人が働く日本

日本は人手不足になると在留資格を緩めて、泥縄式に外国人労働者を使ってきた。政府は移民政策を否定しておきながら、単純労働の現場では技能実習生や留学生が安価な労働力として使われている。新たな在留資格制度にしても、デモグラフィ(人口統計学)に基づいて長期的な視野から練られた施策ではなく、人手不足に悩む経済界の悲鳴に応えて付け焼き刃的に設計した制度にすぎない。

移民政策に関しては、私は25年前から『新・大前研一レポート』(講談社)で提言を行っている。日本での就労を希望する外国人で、母国の学校でしかるべき教育を受けて優秀な成績で卒業した人材、あるいはきちんとした資格を持っている人材は積極的に受け入れて、政府が費用を負担して日本の学校で2年間、日本語やわが国の法律、社会習慣、文化などの基礎を学んでもらう。

そして卒業試験の結果、問題なく日本で生活できると判定された成績優秀者には「日本版グリーンカード」を発行する。日本版グリーンカードは国籍がなくても永住と就労を保障する資格証明書であり、これを有する外国人は日本人とまったく同じ条件で働けるようにする。日本に残りたいのなら、5年後には市民権を与えてもいい。