総務省の「全国消費実態調査」などを見てみると、夫婦2人世帯の老後の生活費は平均で年間約300万円です。60歳から90歳までの30年間を老後だと考えると合計で約9000万円。これに医療費や介護費などを加えて、約1億円が必要だといわれます。

ただし、65歳からは公的年金が支給されると考えると、平均的な給与水準では、夫婦で約7000万円の年金受給が見込まれます。1億円との差額は約3000万円。さきほどの夫婦も、いまからしっかり貯蓄ができればいたずらに不安になる必要はないはずです。

注意が必要なのは「蓄え」より「支出」

それでも注意すべきことはあります。老後の備えでは「蓄え」ばかりに注目が集まりますが、じつは「支出」にこそ大きなリスクが潜んでいるのです。

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先の例で、年収約880万円で年間100万円ずつ貯蓄ができるようになったとしても、年間の支出額は780万円になります。「老後の備えは3000万円で十分」という試算は、夫婦で年間約300万円の支出を前提にしていますから、老後も現役時代と同じような支出を続けていれば、家計はそのうち破綻してしまいます。

「退職する前には子どもの教育費もかからなくなり、住宅ローンの支払いも終わる。必ず支出は減るはずだ」。そんな漠然とした考え方は非常に危険です。いまの60代、70代を見ればわかるように、ほとんどの退職世代は健康でアクティブです。グループ活動に参加したり、旅行へ出かけたり……。そうやって余暇を過ごすにはお金も必要です。

安心して老後を迎えるためには、以下の3つのポイントを確認してください。第一に、現在の家計支出を把握し、さらに老後の支出について試算します。第二に、毎月欠かさず貯金をすること。50代以降であれば、ボーナスは可能な限り貯蓄に回しましょう。第三に、毎月の貯蓄の一部を「投資信託」などの投資に回すことです。

第一のポイントである支出の把握は、老後に必要なお金を算出するうえで欠かせません。老後を迎える前に、「メタボ」な家計を見直しておきましょう。少ないお金でも生活できるように体を慣らしていくわけです。はやめに実行できれば、貯蓄は増えますし、老後に必要となるお金も少なくてすみます。

家計がきちんとスリムになっていれば、第二のポイントである貯金は自然にできているはずです。「いまから貯金をしても手遅れだ」と考えて、あきらめてしまう人もいるようですが、たとえ数年間でも、そこで貯めたお金があれば、老後の暮らしがグッと変わってきます。