最大の障壁は、親への実力行使が困難だという点
「執行官が立ち入れるのは原則、『債務者(連れ去った親)の住居その他債務者の占有する場所』(ハーグ条約実施法第140条)。幼稚園や小学校への立ち入りは、例外的にしか認められません」
解放は子が債務者と一緒にいるときに限られる。たとえば親が子を親せきに預けて雲隠れしたらお手上げ。「親が子の所在を隠したら、留置所に拘束されることもある」という海外とは大違いだ。
最大の障壁は、親への実力行使が困難だという点だ。
「アメリカでは、玄関に出てきた親の手首を捕まえ、その隙に他の執行官が子を解放することもあります。日本では、子の目の前で親を抑えると、『子の心身に有害な影響を及ぼす執行』と言われかねない。そのリスクが執行官にとってプレッシャーになっています」
そこで、法制審議会は18年6月にハーグ条約実施法改正試案をまとめるなど、法改正の動きも出てきた。
ただ、本多弁護士は「海外並みになるかどうかは現段階ではわからない」と指摘。
「日本は、民事執行法も当事者の自主的解決能力に期待する建てつけになっていて、強制執行力が弱い。ハーグ条約の強制執行は、より執行しやすい内容になることを期待しています」
(答えていただいた人=弁護士 本多広高 写真=共同通信)