アメリカ人女性との結婚「家庭を取るか、仕事を取るか」

【田原】ところが帰国1年でお辞めになる。これはどうして?

【柴山】一番大きい理由は国際結婚です。財務省の官僚は、予算や税を編成して、ほかの省庁と一緒に政策をつくり、国会答弁を用意して、官邸と調整を行う。これは日本もイギリスも変わりません。ただ、イギリス時代は週3で早く帰って私が夕食をつくっていたのに、日本に帰国後は朝3~4時にならないと帰ってこられなくなった。それで妻が怒ってしまいまして。

ウェルスナビCEO 柴山和久氏

【田原】なるほど。家庭を取るか、仕事を取るか迫られたわけですか。

【柴山】イギリスのときは、どちらもできたのです。イギリスは10時以前と16時以降、予算ヒアリングなどの会議が禁止されていました。そうしないと保育園の送り迎えに行く人が不利になるから。国会答弁もその時間内につくるので、夕食をつくる時間に普通に帰れました。

【田原】日本は違うのですか。

【柴山】ルールは同じなんです。たとえば日本もイギリスも、国会で大臣に質問する内容は48時間前までに通知する必要があります。ところが日本だと、このルールが守られない。だいたい前日の午後、場合によっては夜の8~10時に通告が入ることもあります。そこから「関連するデータを出せ」と言われても用意するのは難しいし、関連質問についても準備できません。それでも付け焼き刃で対応して、ほかの省庁と協議して、朝の3時や4時にようやく準備が整う。夕食の時間になんて帰れません。

【田原】それで、財務省を辞めてマッキンゼーにお入りになる。就職するまでかなり時間が空いたそうですね。

【柴山】財務省を辞めて、まずはフランスのINSEADに留学しました。MBAは1年で取得しましたが、その後に就職できなくて浪人です。いま自分が人を採用する立場になってわかりましたが、私みたいな人間は採用しづらいのでしょう。財務省出身で、米国弁護士で、MBAを持っていて、それなのにビジネスの経験や特定の産業に対する知見もないですから。

【田原】経歴だけを聞くと、プライドが高くて使いづらそうです(笑)。

【柴山】なので、ことごとく選考で落ちました。4カ月後にやっとマッキンゼーから内定をもらいましたが、それまでは精神的にキツかったです。採用面接はいつ呼ばれるのかわからないので、その間、仕事もできない。社会との接点が失われると、自分は世の中に必要とされていない人間のような気がしてきて……。

【田原】生活も苦しかった?

【柴山】はい、当時はスターバックスに行くのが生きがいでした。スタバのコーヒーは当時100円でレシートを持っていくとおかわりができたので、午前中に妻と2人で1杯をシェアして、午後にもう1杯飲んでいました。あるとき目の前に老婦人がベビーカーに犬を乗せてやってきましてね。犬にマンゴーフラペチーノを飲ませているんです。ああ、自分は犬以下だなと。