AIのできる仕事の範囲がどんどん広がっている。このまま人間の仕事は奪われてしまうのだろうか。早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏は、「そのぶん、人間にしかできない仕事の価値が相対的に上がる。仕事を奪われないようにするためには、社会人になっても不断の “勉強”が必要だ」と説く――。
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新しい勉強の時代が到来している

これまで、日本では、大学に入るために勉強をしました。安定した生活が保証される大企業や官公庁などの大組織に入るためには、卒業した大学の名前が重要だったからです。勉強が、より偏差値の高い大学に入るための手段であったことは否定できません。

勉強は、大学に入った時点で終わりでした。社会人になっても、理系の研究者などを除けば、一般的にはそれ以上の勉強をしなくてもすんだのです。ところが、いま、その状況は大きく変わってきています。勉強を続けなければ社会の変化に対応できない時代がやって来たのです。

不断の勉強が求められる社会の変化が、何によってもたらされたかといえば、それはコンピュータ技術の急速な進化です。新しいコンピュータ技術は人間が行っていた仕事を奪いつつあります。ですから、収入を得るためには、コンピュータに代替されない仕事に就くことが必要であり、そのためには勉強が不可欠なのです。

新しいコンピュータ技術の代表にAIがあり、AIは今後、多くの労働者の仕事を代替することになると予測されています。労働者にとっては、生活を脅かす存在ですが、ここで注意すべきは、AIは万能ではないということです。AIはいくつかの特殊な分野で非常に能力が高いのであり、すべてのことができるわけではありません。

パターン認識が可能になり進化を遂げた

AIとは、人間と同じように、あるいは人間よりも高い能力で考えることができる、たとえば、鉄腕アトムのようなものとイメージしている人が多いようです。そのようなイメージを持てば、AIは、すべての面で人間よりも高い能力を発揮し、人間の仕事を次々に奪っていくと考えてしまいます。しかし、現実はそうではありません。

すべてのことができるAIを、汎用AIと言います。鉄腕アトムのような汎用AIはまだできていませんし、将来できるかどうかもわかりません。

これはAIを含むコンピュータ一般について言えることですが、コンピュータができることは特殊な分野です。ただし、特定のことについては、非常に高い能力を発揮します。たとえば、計算は、人間ではまったく追いつかないスピードで、大量に処理することができます。