全国からパン好きが集まる人気店を経営
フルーツや野菜、豆類をひとつのボウルに入れて食べる、「ブッダボウル」というメニューがある。アメリカで生まれ、「オシャレでヘルシー」ということからインスタグラムで広まった。日本では認知度が低いが、東京都渋谷区恵比寿にある「マリデリ」はこのメニューの専門店だ。独立した店舗ではなく、カフェバーの営業していない時間帯を使って、平日火曜~金曜日の12:00~15:30のみオープンしている。
「マリデリ」の店主で、7月にレシピ集『ブッダボウルの本』(百万年書房)を刊行した前田まり子さんは、かつて神奈川県葉山町で人気のパン屋を経営していた。
パン屋の名前は「カノムパン」という。2000年の創業当時には珍しかった天然酵母パンを扱い、その名前はパン好きの間ですぐ知れ渡った。全国からお客さんが訪れる盛況ぶりに、週休2日でもまったく休まることのない毎日を送っていたという。
パン職人を目指していたわけではなかった
「休みの日も1日はお店のことで潰れてしまうことがほとんどで、2日まるまる休めることはまれでしたね。せっかく葉山という海の街に住んでいたのに、夏に海で泳いだことはほとんどなかったです。朝4時に起きて、3~4時間かけてパンを発酵させて、成形をして焼き出したりランチの仕込みをしたりしていると、もう開店時間の12時。午後3時くらいにお店が落ち着いてきたら、パン作りの過程で出た粉塵の掃除をしたり、明日のパンのために酵母の培養をしたりして、6時にお店を閉めたら次の日の買い出しに行って……。朝が早いので毎晩10時くらいには眠りにつく、遊ぶ余裕のないスケジュールでした」
そんな前田さんは、昔からパン職人を目指していたわけではない。
「高校を卒業するとき、親が厳しかったこともあって、『好きな仕事につく』という選択肢はありませんでした。就職しないといけなかったので、コンタクトレンズメーカーの検査員として働き始めました」