水と油の関係を緩和する「共通の敵」

このモデルは様々なケースで応用ができます。もちろん、AとBの両者が巨人ファンで、対象Xがジャイアンツならば、お互いの関係はプラス、となります。AとBが巨人ファンと阪神ファンでも、対象Xが「プロ野球を応援すること」だった場合、どちらもプラスで「ファン心理」は共通しているので、AとBの関係もプラスで良好です。

また、Aが巨人ファンで、Bが阪神ファンでも、対象Xが広島カープで、ペナントレースで激しく争っているとすれば、A―Xはマイナス、B―Xもマイナスなので、かけあわせるとプラスになります。「カープの弱点はここだ」と、両者で盛り上がることもできるというわけです。

巨人ファンだと切り出せない、という悩みがあるのであれば、ABXモデルに落とし込めば、「では、どのような対象ならお互いをプラスに持っていき」うまく話せるのか、ということを整理できます。例えば、話題は、カープや西武打線でもいいし、野球界や審判への愚痴でもいいかもしれませんね。

ビジネスでも、職場での上司との関係、あるプロジェクトに対するスタンスなどを、漠然と捉えるのではなく、ABXモデルに落とし込んで整理するのもいいでしょう。

もしかすると、今回のケースでは、阪神ファンである相手は、阪神ファンという以前に「苦手な上司」で、だからこそ言い出しにくいのかもしれません。無理に相手への印象を操作しようと努力するより、苦手な相手には、普段から「ありがとう」「こんにちは」と感謝や挨拶を欠かさないようにして、苦手意識を和らげるほうがいいように思います。

竹村和久
早稲田大学文学学術院教授
著書に『行動意思決定論―経済行動の心理学』『経済心理学―行動経済学の心理的基礎』など。
(構成=伊藤達也 写真=iStock.com)
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