やはり、仕事はカネのためにやるのでは意味がなく、家族のためや、社会に貢献するためにやるのであった……。少しずつ蓄積されていた変化が一挙に凝固したのかもしれない。
ちなみに、内閣府の世論調査によると、「何か社会のために役立ちたいと思っている」と答えた人の割合は、1990年代以降に急上昇している。80年代は軒並み4割程度だった社会貢献意識が、91年のバブル崩壊後に63.9%まで上がった。
その後は、08年まで60%台後半を維持し、10年には65.2%と若干低下したものの、全体的には高い傾向が続いている。社会貢献欲求の高まりにも予兆があったのだ。
実はこのほうが現実的な解釈かもしれないとも思う。私の想像だが、恐らく70年代あたりの高度成長期にこの大震災が起こっていたら、今回多くのデータで示された、深く心の内側を見つめあうような変化は見られなかったかもしれない。
落胆か反発か、いずれにしても、もう少し震災に対するストレートな反応が見られた気がする。その意味で日本の社会のゆっくりとした、でも大きな変化と連動した動きなのかもしれない。
ただ、考えてみると「自己実現」という極めて個人的な欲求と「社会貢献」という社会性を帯びた欲求が同居しているのは不思議な感覚でもある。また家庭・家族回帰と人のために役に立つ仕事をしたい、という2つも場面によっては矛盾があるだろう。家族・家庭という極めて個人的な場を守るという考え方と、社会に対して役に立つことが相反する状況はいくらでも考えられるからだ。