社会貢献への意識が2倍以上増加
そして第三の傾向が、仕事の内容に関して、他人や社会への貢献や自己実現といったやや青臭い要素が重視されるようになったことである。この点は、先にも述べた高収入や昇進・出世などへの関心の低下と際立ったコントラストを見せている。どの調査を見てもほぼ同様に、仕事の社会的意義や社会的貢献、または自己実現が強調されているのである。
例えば、JTBモチベーションズが大震災から2カ月後の5月中旬に約1000人を対象に行った調査では、「社会に貢献する仕事をしていきたい」という回答が2010年12月の調査に比較して2倍以上に増えており(11.8%→27.4%)、また役職が高いほどこうした意識は強い(部長クラスで37.8%)。
同様の結果は、プレジデント誌調査でも強く見られ、1年ほど前の調査に比較して、モチベーションの源泉として「社会や他人への貢献」を挙げる割合がほぼ2.6倍増、「仕事自体のおもしろさ」を挙げる人がほぼ1.5倍増である。プレジデント誌調査は、他の調査に比べて時期が新しいので、こうした傾向が比較的持続していることがわかる。
いうなれば、仕事観や働き方についての考え方は、震災直後大きく安全・安心にふれたがその後その傾向は弱まり、そのなかで家族や家庭志向、そして社会貢献志向、社会に役に立つことによる自己実現が強いまま維持されたということかもしれない。仕事観のなかで新しく重要になってきたキーワードは、家庭・家族、他人や社会への貢献、自己実現などだろう。
ここに示したような傾向がどこまで維持されるかは、時間がたたないとわからない。だがひとつ言えることは、今回の大震災直後、多くの日本人が、自分たちの働き方について少なからず疑問をもち、「何のために働いているのか」を問いかける瞬間を経験したのは恐らく間違いない。自らの働く意味についての小さな問いが生まれた、という言い方でもいいのかもしれない。
いうなれば、これまで多くの人が何を求めて働くのかをきちんと考えることなく、なんとなく会社と仕事を選び、会社に入ってからは企業が提供する昇進や処遇を、自らの目標だと定めて職業生活を過ごしてきたのが、今回の震災はそうした選択で前提としていた大切なものを疑わせる結果となったのだろう。
またはこれまで薄々感じていた自分のなかの仕事観の変化が一挙に顕在化したのかもしれない。ここしばらくワークライフバランス議論などを通じて、仕事生活における家庭や家族の重要性が指摘され、また社会的貢献の意義などについても強調される環境で、一人ひとりに少しずつ染み込んでいたものが、大震災で一挙に現実感を帯びたのである。