安倍晋三首相が苦しい「逃げの答弁」を続けている。今度は加計学園の獣医学部新設をめぐって、2015年当時に首相秘書官だった柳瀬唯夫・経済産業審議官が、首相官邸で愛媛県職員らと面会した際に「本件は、首相案件」と語ったとする文書がみつかった。安倍首相は柳瀬氏は発言を認めていないとし、「(柳瀬氏を)信頼している」と述べた。真実はどこにあるのか――。
4月10日、記者の呼び掛けに答える柳瀬唯夫経済産業審議官(写真=時事通信フォト)

「言った」「言わない」の水掛け論でいいのか

安倍晋三首相は4月11日の国会で、2015年当時首相秘書官だった柳瀬唯夫・経済産業審議官が加計学園の獣医学部新設を「首相案件」と発言したとする愛媛県の文書内容について全面的に否定した。

安倍首相は柳瀬氏が発言を認めていないとし、「秘書官を信頼している」とも述べた。これに対し、野党側は「愛媛県の文書か、柳瀬氏かどちらかがうそになる」と詰め寄った。

このため11日の衆院予算委員会の集中審議は度々中断し、国会は混乱した。

このままでは「言った」「言わない」の水掛け論で終わってしまう。そんな終わり方では何とも情けないし、国民は蚊帳の外に置かれたままである。

要は白か黒かの簡単な話だ。国会は柳瀬氏の証人喚問を行うなど徹底解明に向けて努力してほしい。

いま日本の立場が国際的に大きく注目されている。北朝鮮問題に対する対応で正念場を迎えるときに、政権の信頼を損なうような事態を放置することは決して許されない。安倍首相は真相解明に向け、真摯に努めるべきだ。

なぜ安倍首相は「首相案件などない」と明言しないのか

集中審議での安倍首相の答弁をもう少し振り返ってみよう。

柳瀬氏が「首相案件」と述べたとする愛媛県の文書をもとに野党が質問すると、安倍首相は次のような答弁を何度も繰り返した。

「愛媛県が作成した文書なので政府としてコメントできない」
「柳瀬元首相秘書官の発言を信頼している」

実に苦しい逃げの答弁である。国民の前で真相をはっきりさせるためには、県の文書かどうかは関係ないだろう。なぜ明確に「愛媛県の文書はうそだ。首相案件などもない」と答えられないのか。

柳瀬氏は2015年4月の県職員らとの面会や首相案件発言を否定し、「記憶の限りでは」とコメントしている。しかし自民・公明の与党内では「文書と記憶とでは勝負にならない」と受け止める議員が多い。

さらに集中審議では「安倍首相の答弁はうそだ」などと野党に攻められ、安倍首相が「うその証拠を示してほしい」と怒りをあらわにする場面もあった。一国の首相が国会答弁で興奮するようではこれまた情けない。

森友学園への国有地売却問題や、自衛隊の日報隠蔽への質問でも安倍首相の答弁は歯切れが悪く、与野党のやじの応酬に油を注くだけだった。

一読では客観的にみえる読売の巧みな社説

今回は読売新聞の4月12日付の社説から読んでいく。

読売社説は「学校法人『加計学園』を巡る問題が再燃している」と書き、次のように論じていく。

「衆院予算委員会で野党は面会や発言の有無をただした。安倍首相は柳瀬氏について『私は元上司として、信頼している』と語ったが、面会記録への言及は控えた」
「事実関係について、柳瀬氏には積極的な説明が求められよう」
「問題の核心は、学園の加計孝太郎理事長の友人である首相が不当に関与していたかどうかだ」

ここまではいいだろう。客観的に書かれており、「不当に関与していたかどうかだ」の部分も分かりやすい。

しかし書いているのは、論じることに手慣れた論説委員たちである。読者はだまされてはならない。