かつては軍事技術の開発が先行的におこなわれ、それが民間に波及して新しいイノベーションを生み、製品開発を促したこともありました(インターネットやGPSなどはその例です)。しかし今では、民間の技術が軍事技術に移転されるのが一般的な形になっており、軍事技術の開発投資が経済を牽引するという状況も失われています。
「戦争がもうかる」はもはや過去の話で、現在においては、戦争の経済効果は著しく減退、もしくは財政負担要因として、マイナスに作用するようになっているのです。
トランプ大統領が北朝鮮を軍事攻撃しようとしても、アメリカの政財界や一般国民はかつてのように戦争を支持するインセンティブを持たず、攻撃に賛同しないでしょう。
2003年のイラク戦争を経て、今日のアメリカは一国平和主義的な孤立主義の傾向を強めています。現在のアメリカ国民は覇権よりも、国内平和と福祉施策の拡充を求めているのです。トランプ大統領は大統領選の公約として「アメリカ・ファースト」を掲げ、国際紛争への介入によってアメリカが損をするようなことはやめると明言していました。
「戦後特需」で潤うのは日米ではない
このような経済的背景を考えれば、アメリカの北朝鮮への軍事攻撃の可能性は低いと言わざるを得ません。攻撃時だけでなく、攻撃後の治安維持等に関する莫大な費用支出についても考えなければなりません(イラク戦争のときのように)。アメリカにはもはや、そのような費用負担を買って出る気概などないというのが現実でしょう。日本や中国が費用を肩代わりするというならば、話は別ですが。
もしアメリカが北朝鮮に対し、軍事行動を行ったとして、経済的利益を得る国はあるでしょうか。アメリカは サージカル・ストライク(surgical strike 外科的攻撃)で短期に攻撃を収束させるでしょうから、戦時特需のようなものは見込めません。しかし、「戦後特需」は想定されます。北朝鮮復興を起点とする有効需要創出で波及効果を直接受けるのは周辺の中国、韓国、ロシアであり、漁夫の利を得る立場にあると考えられます。
治安維持費用はアメリカや日本の負担、復興開発など波及効果は中国などの周辺国が享受する。こんな話にもなりかねません。
著作家
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)、『「民族」で読み解く世界史』(日本実業出版社)などがある。