古来より、「戦争はもうかる」とされてきましたが、まさに第2次世界大戦はアメリカにとって、もうかる成功体験そのものであったのです。この成功体験が麻薬のようにアメリカ国民を痺(しび)れさせ、前述のような戦後の軍拡路線に突き進んでいくことになります。

朝鮮戦争(1950~1953年)も景気刺激の効果をもたらします。第2次世界大戦後、戦時需要がなくなり、景気後退に陥っていたアメリカ経済が再びプラス成長に転じます。朝鮮戦争前の1949年、1人あたりGDP成長率はマイナス1.33%でしたが、1950年、6.89%へと急回復します。

ベトナム戦争から風向きが変わった

しかし、「戦争はもうかる」というセオリーは、ベトナム戦争(1965~1973年)以降、崩れていきます。ベトナム戦争前の1964年の1人あたりGDP成長率は4.33%でした。1965年、5.05%とわずかに上がるも、次第に成長幅が縮小し、戦争終盤の1970年にはマイナス0.98%に落ち込みます。

この頃、アメリカは財政赤字を累積させていきます。国防費のみならず、医療支出も、1965年の41億ドルから1970年の139億ドルへと急上昇します(ジョンソン政権の「偉大なる社会」のプログラムによる)。

1971年、ニクソン大統領は、ドルと金の交換停止を発表し(ニクソン・ショック)、ドルを基軸とするブレトン・ウッズ体制を崩壊させます。

ベトナム戦争期においては、巨額の財政赤字がドルへの信用不安を引き起こし、資金が海外に流出するなどの副作用が現れはじめました。戦争という公共事業の効果に、陰りが見え始めたのです。

その後の湾岸戦争(1990~1991年)では、1989年の1人あたりGDP成長率2.48%から1990年には0.61%、1991年のマイナス1.79%と低下しています。戦争はもはや景気を刺激しないということが、明らかになりました。

1970年代以降、アメリカ経済の規模は膨大なものとなり、軍事費やそれに関連する部門の経済全体に対するシェアが低下。軍事部門だけが戦争で潤ったとしても、経済全体にその恩恵は及ばなくなっていました。

また、アメリカは平時でも恒常的に戦時体制に匹敵する国防費を支出するようになったため、戦争が起きても大量動員は起こらず、政府支出も劇的には増えず、その結果として景気刺激の効果はほとんどなくなったのです。