認知症の親の介護 息子の「自腹」額はたちまち100万円

こうした事例は決してめずらしくないようです。ベテランのケアマネージャーIさんは「口座凍結になって、お金の苦労をした利用者はたくさんいます」と語ります。

*写真はイメージです(写真=iStock.com/shapecharge)

「例えば、50代の男性Sさんです。実家でひとり暮らしをしていたお母さんが認知症になり、長男であるSさんは通いで介護生活を始めました。当然、費用がかかります。あいにく『認知症の人の預金は家族が引き出せないこと』を知らなかったようで、ありのままを銀行に語り、お母さんの預金が引き出せなくなってしまった。介護サービスは介護保険によって原則1割負担で利用できますが、何かと出費はかさむものです。Sさんは仕方なく、その費用を自分の預金から払っていたのですが、ふと気づくとその額は100万円を超えるまでになっていた。Sさんには奥さん子どももいるし、このままでは自分の家庭が崩壊してしまうと思い、私に相談してきたわけです」

▼親の預金を自由に使えるようになるわけではない

この時、Iさんは成年後見制度を紹介したそうです。

成年後見制度とは、認知症など精神上の障害により判断能力が不十分で、意思決定が困難な人について、その判断能力を補い、財産などの権利を擁護する制度です。親族が後見人になれば、口座凍結にあっても、介護費用を本人のお金から出すことができます。

ただし、申し立てには、家庭裁判所による認定が必要で、手続きは煩雑です。また親族であれば後見人になれるとは限りません。2015年の統計では、親族が選任されたものは全体の約29.9%。親族以外の弁護士や司法書士といった第三者が選任されたものが全体の約70.1%でした。

後見人は本人の財産を守る存在です。必要最低限の財産使用はできますが、それを超える出費は裁判所の了解を得なければいけません。つまり、親の預金を自由に使えるようになるわけではないのです。追い詰められたSさんは成年後見人になることで自らの生活崩壊を防ぎましたが、代わりに煩雑な手続き抱え込むことになってしまいました。

では、どうしたらいいのでしょうか。

「一番いいのは、親御さんが元気なうちに、もしものことがあった時に備えて金銭面での問題をクリアにしておくことでしょうね。ただ、これが難しい」(Iさん)