ここで大切なのは、「ライバル会社は、お客様を奪いながら、サービスの不足を教えてくれている」と認識することです。

武蔵野の経営計画書に「ライバルに関する方針」と「お客様に関する方針」があるのは、現場の事実(数字)に基づいた経営の見える化をしているからです。「お客様」と「ライバル」は、こちらの都合に合わせてはくれません。だから武蔵野では、その変化を察知して経営計画書を毎年書き換えています。

「やりたいこと」を優先してしまうのはダメ社長

多くの社長は、「あれもやりたい」「これもやりたい」という思いをたくさん持っていますが、「やりたい、やりたい」という「思い」ほど、「重い」ものはありません。経営計画書に、さまざまな「方針」を盛り込むと、社員は「放心」状態になってしまうでしょう。

社員に「社長の思い」を浸透させたいなら、「やりたいこと」ではなく、むしろ「やらないこと」を明確にすべき。「やらないこと」をはじめに決めると、自分のテリトリーが見えてくるのです。

現在の武蔵野が「同じお客様に繰り返し向き合う仕事」と「こちらから訪問する仕事」しかやらないのは、「製造業はやらない」「店舗を持たない」と「やらないこと」を決めたからです。

社長に就任して3年目のとき、他社に先駆けて提案型の営業ビジネスを立ち上げたことがあります。「クリエイト」という事業です。

ところが結果は大失敗。2億8000万円投資をして、売上は3000万円。それだけでなく、事業を撤退させるのに、銀行から3000万円の借入を受けました。

失敗の原因は、市場ができていなかったことです。ライバルがいない代わりに、軌道に乗るまでにどのくらいの期間を要するかも読めない。当時のわが社の体力では、リスクが高すぎる事業でした。