後継者不足が深刻だ。継がせたい人がいない、という問題はある。しかし、事業承継が進まない大きな原因は、先代社長にある。仕事ができ、人望もある先代社長がなぜ、事業承継だけは進められないのか。日夜、経営者と向き合い、会社の裏側まで知り尽くした弁護士が、この謎を解き明かす――。

80歳を超えた経営者の宣言に絶句

経営の肝は、カネとヒトだ。

これは、あまたの悩みを経営者とともに解決してきた者として、見出したたった一つの真理だ。中小企業の経営は、カネとヒトさえしっかりコントロールすることができれば、うまくいく。単純といえば単純だ。だが単純だからこそ難しい。この難しさは、世代交代のとき、大きな壁となって後継者の前に立ちはだかる。

中小企業の後継者不足は、深刻な状況だ。ときに80歳を超えた経営者が「まだまだ社長としてがんばりますよ!」と意気揚々と語ることがある。こちらとしては、「そうですか。頑張ってください」としか言えない。息子さんも、銀行も、取引先も、「早く代替わりしてください」と思っている。

中小企業の経営者にとって、仕事こそ人生のすべてだ。仕事が楽しくてしかたない。だから「社長」という立場から離れることができない。一方で私たち人間は、どうしようもない運命を背負っている。誰しも死ぬのだ。社長が突然亡くなったときの混乱は、尋常なものではない。それだけは避けなければならない。

では、中小企業の事業承継で、もっとも大事なポイントは何か。