まずは、奥底まで落ち込むがいい
1曲目は『鳥の歌』である。
スペインカタロニア地方の民謡をチェリストであるカザルスが編曲したこの楽曲は、平和を祈り、故郷を愛する曲だ。本来の意味はさておき、落ち込んでいる気持ちをそのまま抱え込むには、ぴったりの物悲しさが漂っている。漂っているどころではなく、隅々まで物悲しい色が染み込んでいる。
どうしてこうなったんだ、なんて馬鹿なことをしてしまったんだ、という後悔を押さえ込まず、ここは咽び泣きながら聴いてほしい。短調の物悲しいメロディがチェロで聞こえてくると、気がついたちときには涙を流しているかもしれない。
チェロの太く優しい旋律が胸を締め付けてくる。自暴自棄になりかけているあなたをさらに、もう一段階落ち込ませる。
ショパンを聴くと、底から脱出できる
しっかりと落ち込みを意識できたら、次に聞くべきはショパンの『バラード1番』である。冒頭のダーンという和音で、頭を抱えて落ち込んでほしい。そして、次々に流れ来る緩やかな旋律を聴きながら、「あれがまずかった」「ここで間違った」「やっぱり俺のせいだった」と後悔を重ねていくといい。
中盤で、テンポが早くなったころには「ああ、バカだ、バカだ、バカだ」とメロディに合わせながら、好きなだけ自分を罵ることも可能である。そうこうしているうちに、少し明るめのメロディに変化していく流れに身を任せてみる。
曲の最初とは違う心の動きが生まれ、ダイナミックな盛り上がりのときにはなぜか、「そうだ、こんな自分でも頑張ってるじゃないか」となぜか底を脱しはじめ、テンポの速い箇所に来るころには「もういいか」という気にもなれる。最後に軽やかなメロディでつながるころには、落ち込んでいるには変わりないけれど、1曲目の自分とは違って、気分も少し落ち着いているはずある。
よもやショパンも自分の作ったバラードに合わせて、バカだアホだと後悔と反省の材料にされているとは思いもよらないだろうが、音楽とは聞く人の裁量に委ねられた部分もある。解釈を無限に持てる曲こそ、最高の芸術音楽だと言ったのは誰だったか。
とにかく、この素晴らしいバラードの傑作を聴きながら、落ち込んで、引きこもって、そして浮上してもらいたい。それくらいの度量が、この楽曲にある。落ち込んだ自分をまず認めて、後悔もしっかりしたら、そろそろそんな自分を慰めるときだ。