スタジオジブリ制作部門の解体が関係か

ところが、『この世界の片隅に』はそうではありません。登場人物はお箸を手に取った後、もう片方の手で押さえながら持ち替える。やってみるとわかりますが、誰でもこうやって箸を持ち替えますよね。アニメーションとしての表現がとんでもないレベルに達しているんですよ。日本アニメがこれまでやってこなかった領域への挑戦でしょう。

こうしたレベルの高い作画が可能になった背景には、スタジオジブリ制作部門の解体が関係していると僕はにらんでいます。2013年9月に宮崎駿は長編映画製作からの引退を発表し、2014年にはスタジオジブリの制作部門が解体されましたが、これによって日本中にジブリ出身の優秀なアニメーターが散っていったわけです。

後編では、『この世界の片隅に』の物語構造、そして制作プロセスまでもが、ジブリ作品へのアンサーになっていることを解説していきたいと思います。(つづく)

岡田斗司夫(おかだ・としお)
社会評論家
1958年大阪府生まれ。1984年にアニメ制作会社ガイナックスの創業社長を務めたあと、東京大学非常勤講師に就任、作家・評論家活動を始める。立教大学や米マサチューセッツ工科大学講師、大阪芸術大学客員教授などを歴任。レコーディング・ダイエットを提唱した『いつまでもデブと思うなよ』(新潮新書)が50万部を超えるベストセラーに。その他、多岐にわたる著作の累計売り上げは250万部を超える。
【関連記事】
『君の名は。』実写版は絶対にヒットする
なぜ世界中が『君の名は。』に夢中なのか
なぜアニメの声優に若者は熱狂するのか
『シン・ゴジラ』『君の名は。』……ヒット商品はどのように生まれるか?
片渕須直さんの「人に教えたくない店」