新海誠監督の長編アニメーション映画『君の名は。』は、日本だけでなく、海外でも歴史的な大ヒットになっている。すでに実写版がハリウッドで制作されることも発表された。アニメ史に詳しい岡田斗司夫氏は「実写版は絶対にヒットする」と断言する。その理由とは――。

※本稿は、岡田斗司夫『大人の教養として知りたい すごすぎる日本のアニメ』(KADOKAWA)を再編集したものです。

『君の名は。』公式サイトより

宇宙と人間の多重的な「結び」

1月3日に放映された『君の名は。』はご覧になったでしょうか。

『君の名は。』の劇中では、「結び」というキーワードが頻繁に使われ、これが映画全体のテーマになっています。細い糸を撚(よ)って組紐をつくるシーンが出てきますが、いろいろな事件や時間軸が撚り合わさって、話が紡がれていくという構造になっているんですね。

例えば、ティアマト彗星。この彗星は1200年に一度、太陽系外から地球に接近し、太陽の近くを通って、また太陽系外に帰っていく。このティアマト彗星が割れて、破片が地球に落ちると、大災害になります。

三葉の住んでいる糸守町には、巨大なクレーターがあって、その真ん中に神社があります。このクレーターは、1200年前に落ちた隕石によって生まれたものです。隕石の落下は、過去に何度もあったことなのでしょう。

なぜ、こんなに繰り返し隕石が落ちるのか?

それは、かつて地球に落ちた隕石が、太陽系の外を回っている彗星に「会いたい」と思ったからでしょう。

つまり、この物語全体が七夕なんです。2つに分かれてしまったものたち、人間や星がお互いに会いたいと願うから、奇跡が起こる。ただし、星たちの願いは人間界にたいへんな迷惑を引き起こしますから、彗星は三葉たちの一族に超能力を与え、土地の人間が逃げるだけの猶予を作れるようにきっとしているんでしょうね。

もう少し、この構造を大きな視点から見てみましょう。ティアマト彗星は太陽の周りを回っているわけですが、太陽自身も銀河のなかを公転しています。ティアマト彗星や惑星が太陽の周りを回り、その太陽も銀河系のなかを移動しているわけですから、銀河平面の上方からティアマト彗星の軌道を眺めれば、すごく複雑な形状になっているはずです。それこそ、組紐のように。

銀河や太陽、彗星の軌道が複雑に撚り合わされ、そのなかで、別れた相手ともう一度会いたい人間同士、心と身体が入れ替わる。そんな人と人を結ぶ奇跡が、代々受け継がれていく。

こんなふうに、全体が「糸を撚って紐を組む」という構造でできているんですね。時間軸と空間軸において、多重的に「結び」が行われています。

これまでSF作品をつくり続けてきた新海誠の集大成というべき作品でしょう。