この道はいつか来た道? 歴史は繰り返す

また、長短金利差の縮小を同根として債券投資家が「茹で蛙」と化している――すなわち、超過リターンを得る手段がなくなってきていることも気がかりだ。同様の現象が前回発生したのは2006年だったが、行き場を失くした資金がオルタナティブ投資(株や債券という伝統的な資産以外への投資)に走り、結果として2008年に原油価格は150ドル/バレルに迫る価格をつけた。そして原油価格高騰に耐え切れなくなった世界経済は悲鳴を上げ、その後の金融機関破綻と相俟って景気後退に入っていくことになる。

同様の現象が今回も発生する可能性は否定できない。中東に火種がくすぶっていることも気がかりだ。そもそも、現在の中東紛争は「二重の対立構造」にあると目される。一つ目の対立構造は、中東における伝統的な覇権国たるペルシャ(イラン)に対し、新興勢力であるサウジアラビアがその覇権に挑戦するという構図だ。これは地域的な覇権争いの構図であり、「戦史」で描かれた、古代ギリシアのアテネとスパルタの間でも勃発した典型的な「トゥキディデスの罠」(既存の覇権国と新興大国の衝突」の構図に他ならない。

もう一つの対立構造は、イランとサウジという中東の二大国の背後に存在する、ロシアと米国の意向だ。この複雑な構図の中で、トランプ大統領の外交戦略が致命的なミスを犯した場合、中東情勢が一気に不安定化する可能性は否定できない。そして中東情勢の不安定化と供給制約に伴う原油価格高騰が進展すれば、「悪いインフレ、悪い金利上昇」を通じて世界経済の後退をもたらす可能性もやはり、否定できないだろう。

最後に付け加えておくと、最近のビットコインに代表される仮想通貨市場の勃興も、行き場を失った資金の存在と無関係でないだろう。その仮想通貨市場は、分裂を繰り返すたびに相場の急騰を繰り返してきたが、その姿は2000年代中盤に新興IT企業が隆盛した頃の金融市場を彷彿とさせる。当時も、株式分割のたびに時価総額が急増していた企業が存在していたことを覚えている読者も多いのではないだろうか。

総じて言えば、2018年は結果的に「笑う」年になる可能性は十分に考えられるものの、決してリスクが小さいわけではない。「勝って兜の緒を締めよ」の言葉を念頭に置き、楽観的になりすぎず、それでいて悲観的になりすぎることもなく、新年を迎えたいところだ。

小林俊介(こばやし・しゅんすけ)
大和総研 エコノミスト。2007年東京大学経済学部卒業、大和総研入社。11年より海外大学院派遣留学。米コロンビア大学・英ロンドンスクールオブエコノミクスより修士号取得。日本経済・世界経済担当。各誌のエコノミストランキングにて17年第4位。
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