東大を出て「国や歴史の変化に関わりたい」と熱い思いで大蔵官僚を志すも夢は叶わず、フジテレビ入社。それも報道志望だったが、営業職に。「夢からどんどん遠ざかって海岸に打ち上げられた丸太みたいな気持ち」だった。その不満と憤りと嫉妬が原動力になった。
伝説の番組「オレたちひょうきん族」のADを足がかりに、「笑う犬の生活」「トリビアの泉」「爆笑レッドカーペット」など人気番組の企画・演出・プロデュースでフジのバラエティーの一時代を築いた。
テレビ界には厳しい徒弟制度があり、下積み時代のふつふつとわき上がる怒りの気持ち、現状から脱却して一旗揚げたいという嫉妬、たまりたまった鬱憤があったからこそ、数々の成果を出せたと吉田は言う。
しかしテレビ界でもそういった濃い人間関係は風化しつつあると危惧する。自らの経験から得たヒント満載の本書は、企画術のテクニック集であるが、熱い人材育成論でもある。
吉田流は今ふうではないが、“吉田チルドレン”なる人材を多数輩出している。飲み屋で部下に説教し、正座させ泣かすことも。痛いところもガンガン突く。が、肩書の上下でなく、同じ制作者として部下と対決してきた。「反論も大いに結構。青臭い書生議論なんですが、そのときの『何クソッ』という思いをプラスに変えてほしいんですよ」。
現状への怒りや嫉妬はとてつもない力に変わるが、「それに囚われていては物事は達成できない。前の時代の人が持っているボールに憧れ、『俺は俺のやり方であのボールを奪い取るぞ』と鬱憤を募らせる。しかし、奪い取ったボールは次の世代に愛を持って渡さないと。手加減抜きで速球を投げてやるのも愛。でも後の世代に嫉妬や怒りを向けるのはお門違い」。
最近はビジネスの場で人間関係が薄れ、嫉妬や怒りどころか「何事も“ほどほど”でよしとする風潮が蔓延していて、それが気に食わない。欲望を制御できずに暴走したITバブルの崩壊以降、今度は欲望や上昇志向そのものまで否定する世の中になって、“ほどほど”第一が蔓延している。優れた人を叩く嫉妬心ではなく、次は俺だと自分にフィードバックする嫉妬心が欠けているんです」。
テレビ界にも「ほどほど感」があふれている。「だから僕はこうやって社外に出て、新たな立場からそれを変えていきたい」。
吉田の“怒り”はこれからも収まりそうにない。