「努力をすれば必ず成功するんだという根拠のない常識は、即刻捨てなくてはなりません」
本書は、20年以上にわたり読み継がれ150万部に迫る大ベストセラー『思考の整理学』の著者、外山滋比古さんによる書き下ろしだ。
著者の持つ豊富な経験やエピソードを中心にして、積極果敢に「世間の常識」に挑む。
「知は災いのもと」「『人事を尽くす』ことなどまずできない」「りんごは傷のある方がおいしい」……。
ページをめくるごとに、自分が当たり前のように思っていた概念が次々と打ち砕かれていく。外山さんに、読むのに時間がかかったと伝えたところ、「私の文章が悪いせいかもしれませんよ(笑)。だいたい、常識なんていうのは正体のはっきりしないもの。それを、みんなも同じように考えていると勝手に判断して、知識として詰め込んでいるだけなのです。いわゆる『優等生』と学生時代呼ばれていた人たちが、社会に出てあまり役に立っていないでしょう。それは、ぬるま湯にどっぷり浸かった状態で知識や常識という“色メガネ”をかけてしまい、それを外そうとしてこなかったからです」
常識から逸脱できる簡単な方法は、過酷な状況に身を置くこと。それができないのであれば、とにかく考える習慣を身に付けることだと本書は指摘する。知識を増やすことで安易に問題解決をはかるのではなく、問題をつくる能力を身に付けよ、そのための思考活動に注力せよと説くのだ。私が遅々として読み進むことができなかった理由は、外山さんが読者に対して考えながら読むことを要求するからなのだと気づいた。軽薄なノウハウ本、安易な勉強本へのアンチテーゼといえるだろう。
「昔日本では5歳の子に論語を丸暗記させていました。春が来ました、桜が咲きました、という知識を与えても人は考えることなどしません。まったく理解できないぐらい難解なものをぶつけて、必死で考えるように導くのです。そんな教育を全世代にも応用できないか、今一番の研究課題です」
冒頭の言葉の意味はこうだ。清の趙甌北(おうほく)の詩句「三分の人事、七分の天」という言葉を引いて、努力をすればなんでもできる、というのは途方もない思い上がりであり、誠実な努力をしても達成できないことはたくさんある。三分の人事といっても、手を抜けというのではなく、成果を収めるのは努力した分の30%ぐらいであろうという余裕のある心構えと覚悟が大切なのだ。