著者と同じ1980年前後に生まれた8人の若者たちは、就職氷河期に厳しい競争を勝ち抜いて社会人になりながら、働くことの意味に迷う。
「良い大学から良い会社へ。社会にはそんなレールが敷いてあって、僕らはそれに乗るか、外れるかについて、二者択一を求められていた気がします。以前に書いた『僕らが働く理由……』では、そのレールに乗ることを拒否した人、乗れなかった人たちを追いましたが、以来、ずっと心の中に引っかかっていたことがありました。それが、レールに乗った同世代のこと。彼らが変化の著しいこの10年間でどんな風景を見て何を考えてきたのか、それを確認したかった」
世間で言われるところの「勝ち組」たち。その中でも、転職者に焦点を絞った。
「ひとつの組織や『社会』を飛び出すには、ものすごくエネルギーが必要で大きな葛藤も生じます。でも、外に出たからこそ見えてくる世界もあると思っています。僕自身、高校を中退して初めてその経験を相対化することができた気がします。人が何かをやめて、新しく何かを始める瞬間に興味があります」
協調性より自主性が求められる成果主義の時代と謳われながら、実際に会社に入ってみれば旧態依然の年功序列的なシステムがなかば形骸化しながらも支配している現実。2つの相反する価値観の間で引き裂かれたロストジェネレーション世代の混迷ぶりを、4年もの歳月をかけ、インタビューを繰り返すことで、克明にスケッチしていく。その過程、聞き役に徹する著者によって、当事者たちが抱く不安や逡巡、そして決意が、少しずつ「言葉」という形になって表れていく様子は、数多のフィクションよりも生々しく力強い。
「低成長時代の特徴かもしれませんが、僕らは不確かな将来に対するある種の焦りに似た感情に駆り立てられている。働くことの意味について、彼らはここで一応の着地点を見つけることができましたが、これからまた新たな壁に直面するかもしれない。ただし、一度深く考えた経験は決して無駄にはならないはずだと信じています」
このままでいいのかと悩み、自主留学でキャリアアップを図る者。出版界で働きたいという夢は叶わなかったが、新しい職場で自分の確たる居場所を見つけた者……。8つの個別の物語を「社会の通過儀礼」を経た記録だと要約もできるが、ひと言でまとめることに意味はない。真摯な思考の積み重ねが詰まったこの本から何を感じ取るか。それは読む者の自由にゆだねられる。