「この書類の山をなんとかしたい!」
多くの人が直面する課題ではないだろうか。まして書類そのものが仕事上の成果物である研究員やコンサルタントを多数擁する「総合研究所」なら、その悩みはなおさらだろう。
この難題に対し、国内トップクラスのコンサルティング企業である野村総合研究所は経営トップ肝いりの直轄プロジェクトを立ち上げた。メンバーを招集したのは、当時社長を務めていた現会長の藤沼彰久さんだ。
「いいオフィス環境で仕事をすべきだというのが昔からの持論です。もちろん、結果として生産性の向上につながるとの狙いが第一義としてあるのですが、会社人生のおよそ40年間、平日の8~12時間あまりをすごす場所。気持ちのいい環境にしておきたいものですよね」
野村総合研究所は国内有数のIT企業でもあるが、企業のIT化を手伝う立場である同社も、社内では膨大な書類の管理に頭を痛めている状況だったという。
「ペーパーレスの取り組みはすでにあったものの、ひたすら書類をスキャンするだけ。社長就任時から何とかしなければと考えていました」
突破口は社外にあった。先行する企業のオフィスをみせてもらった際、紙のないオフィスを目のあたりにして「徹底すればここまでできる」との意を強くする。
「オフィス効率化にもさまざまなアプローチがあります。当社の場合、システム開発の効率化は進んでいましたが、オフィス環境はひどいものでした」
こうして始まったプロジェクトでは、紙を減らすだけではなく、紙にとらわれないワークスタイルの改善にまで踏み込んだ。
「もともと新しいものに対して全社一斉では動かず、効果を見極めてから受け入れるという『賢い』社風でして(笑)、まずはいくつかのモデル部署でのトライアルを先行させました」
とはいえ、ただ紙を減らせといってもその場限りになってしまう。そこで具体的に「この大型キャビネットはなくしてください」という指示を出した。ときには社長自ら社内をくまなく検分。「社長は本気だ」と、意識の浸透が一気に進んだ。
「現在、オフィス環境の改善には80点がつけられると思います。次のターゲットは、情報共有化の深化です」
紙をなくした記録を紙の本で出したのは、ご愛敬である。
「社内でも議論があったのですがね。あらためて自らを戒めるという意味もあります(笑)」