▼さよなら、おっぱい

いつの間にか景色は一変し、メタリックな感じの部屋に着いた。ここが手術室か、と思っていると、「気分はいかがですか? これから全身麻酔をします。念のため、お名前をフルネームで教えてください」と、先生に話しかけられた。看護師さんも慌ただしく色々準備をしている。

川崎貴子『我がおっぱいに未練なし』(大和書房)

私は、「川崎貴子です。絶好調です。よろしくお願いします」と、例のごとく低く太い声で答える。おっぱいに関してはガンになったのだから切り捨てるのが当たり前だと思っていたし、それこそ今更なんの未練もない。ただ、「私のおっぱい、結構がんばってきたんだな」と最後の最後にその健気な活躍ぶりを、私だけは讃えてやりたいような気持ちが急に芽生えた。

おっぱいなんて、ただの私の肉体の一部だ。だけど、悲喜こもごもありながら、なんて思い出深い私の一部であったことだろう。小さかったけどおっぱいがあって良かった。色々あったけど女に生まれてよかった。

「ありがとう。お疲れさま」と、擬人化したおっぱいをねぎらった途端、目の奥が少し熱くなって、そのまま私の意識は順調に遠のいていった。

川崎貴子
リントス代表取締役
1997年に働く女性をサポートするための人材コンサルティング会社、株式会社ジョヤンテを設立。2014年より株式会社ninoya取締役を兼任し、16年11月、共働き推奨の婚活サイト「キャリ婚」を立ち上げる。著書は『私たちが仕事をやめてはいけない57の理由』など。12歳と5歳の娘を持つワーキングマザーでもある。
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