2017年4月、国内二大証券会社のトップが交代した。両社長とも営業経験が長く、営業部門のトップを務めてきた。2人に自身のキャリアでのターニングポイントといま描く今後の戦略を聞いた。前編は野村証券の森田敏夫新社長。

―― 仕事の原点は。

入社後に配属された広島支店で、あるお客さまを開拓した。しかし、プラザ合意でマーケットが大きく変動したため大損をさせてしまい、「二度と取引しない」とお叱りを受けた。そのとき、変動商品を扱う怖さを知った。お客さまに報いたいと思い、何度も足を運んだ。最初は門前払いだったが、やがて話を聞いてもらえるようになり、案内を重ねるうちに、再び取引をしてもらえるようになった。その後、時間はかかったが損失分を取り戻してもらうことができ、お客さまにも喜ばれた。この経験以来、徹底して勉強し、自分が心底いいと思えたものしか案内しないようになった。しかし、マーケットは思い通りにいかないこともある。失敗したときには、お客さまのところへ必ず足を運び、挽回する提案に努めることで信頼関係を築いてきた。

野村證券代表執行役社長 森田敏夫氏

―― 今後のキーとなる戦略は。

個人のお客さまは長生きへの不安や相続の問題、法人のお客さまは厳しい経営環境への対応や事業承継など、どちらも深い悩みを抱えている。その悩みを相談していただくには、信頼されることが必要だ。そのために、2012年からお客さま本位の営業に取り組んできた。今後も、この取り組みを地道に継続していく。

野村への期待を超えるソリューションを提供することで、信頼のブランドを築いていく。たとえば、相続や事業承継については「野村資産承継研究所」を設立し、税務や法律などの専門家と協力してコンサルティングを行っている。また、今年4月には高齢者対応の専門チーム「ハートフル・パートナー」を立ち上げた。高齢のお客さまやご家族の悩みに寄り添う体制を全国に展開していく。インベストメント・バンキングにおいても、お客さまの側に立ち、やるべきでないM&Aは断るくらいの姿勢で臨むよう指導している。