30歳をすぎてボクシングを始め、44歳7カ月で男女を通じ国内最年長となる世界王座を獲得した女性プロボクサーの池山直さん。池山さんは2017年7月11日、東京・後楽園ホールで行われたWBO女子世界アトム級タイトルマッチ10回戦で、47歳にして6度目のタイトル防衛を果たしました。本業は岡山市役所の職員で、ファイトマネーは一切なし。年齢制限のためタイトルを失えば即引退。そんな状況で、なぜ池山さんは戦いつづけるのか。彼女の原点を追いました。

※本稿は、住友建機広報誌『POWER』132号(2017年冬号)「Power Talk いま第一線で輝いている人 パワーの源泉」からの転載です。

フュチュールジムでトレーニング中の池山さん。サンドバッグの真芯をとらえる重い打撃音が響く

身長152cm、国内最年長の世界王者

「キュ、キュ」とマットが鳴く。黒いウェアの女子ボクサーと、赤いウェアを着た少年ボクサーが、対戦している。

いずれも素早い身のこなしで、「シュ、シュ」と吐く息と同時にパンチを繰り出し、それが、互いのボディやヘッドギアをした顔面にヒットするたび、パン、パン、と乾いた音を響かせる。

2016年11月12日午後4時過ぎ、秋の気配が深まる京都市。中京区烏丸通にある「futur」ボクシングジムのリングで、スパーリングがおこなわれていた。

壁にかけられたデジタル時計がアラームでラウンドの終了を報せ、小休止。1分後、再開の合図で打ち合う。それが何回か繰り返された。

しろうとの私にはどちらが優勢か判断がつかなかったが、いずれ劣らず、スピードもパワーも互角に思えた。が、スパーリングを終えたとき、少年の目には悔し涙が浮かんでいた。

「まだ15歳なんですよ。彼はいずれ世界を狙える。逸材です」

平山靖会長が教えてくれた。

「女子アトム級」とは?

女子ボクサーのリングネームは、池山直。47歳。少年ボクサーとの年齢差は、なんと32歳。だが、それをまったく感じさせない俊敏性と、力強さ。驚かされ、ぶしつけながら、それを伝えると、

「いえ、私なんか……、彼のほうが速いです。彼は天才です」

そんな池山さんは、WBO(世界ボクシング機構)女子アトム級世界チャンピオンである。

ちなみにアトム級とは、女子プロボクシングにかぎり設けられた階級で、体重102ポンド(46.266kg)以下の規定となっている。

池山さんは現役最年長女子プロボクサーでもある。

わが国における女子プロボクシングの歴史は浅く、池山さんのボクシング歴は、そのまま日本女子プロボクシングの歴史をたどることにつながる。

2015年12月、スリランカ・コロンボにてジュジース・ナガワさん(フィリピン)と対戦、3ー0の判定で3度目の防衛に成功(撮影=太田奈々子)