クルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」の企画書
東北に新しい鉄道の旅を作るという案は、会社の総意として決まっていた。特別な旅のために特別な車両、特別な運行をする。これは社長以下上層部の合意事項だった。だから、立案して承認を得るためのプロセスはなかった。
今回、JR東日本から提供された企画書は経営陣に説明する企画書ではない。プロジェクトチームから、JR東日本の社員に向けた説明書だ。計画は簡単に決まった。JR東日本が東北地方で何をするか。これまでの鉄道の仕事は違う、新しい列車を走らせる。この列車が作られる理由と目的を、乗務員、清掃員、運転士、クルーだけではなく、駅長、事務職、営業職、など、社内外で関わるすべての人が理解した上で走らせたい。それがこのプロジェクトにとって、最初の大きな課題だった。
いままでの鉄道は、たくさんのお客様を安全・快適・正確に目的地まで運ぶのが役目だった。それはいまも変わらない。そのために分業とマニュアルによる計画管理を徹底してきた。きっぷを買っていただき、AからBへお客様に移動していただく。その基本は通勤電車から新幹線、カシオペアまで同じだ。
その基本に「お客様の感動を作る」という新しい概念を加える。これまでに無いことをする。あるいはやらない。たとえば、発車ベルを放送で鳴らさない。発車案内に詳しく表示しない。発車の合図はハンドベル。お客様の案内はクルーが付きそう。
運転士はどうか。いままでは制限速度と信号を守り、その中でなるべく速く走らせていた。しかし、お客様の感動というテーマでは、就寝、食事時間中は急な加減速をせず、揺れの少ない運転を心がける。TRAIN SUITE 四季島が経由する路線の駅員は、停車駅だけではなく、通過駅でも視界に入る部分の美化に努める。
鉄道は、それぞれの役割をきっちり守り、その総体で運営してきた。各自の分担の経験と責任の積み重ねだけでよかった。それに、全員が共通する認識として、新たな要素「GOLDEN EXPERIENCE」を追加した。このキーワードについて、それにかかわる各職場で、何をすべきかひとつひとつ検討してもらった。
TRAIN SUITE 四季島のために作られた企画書は、鉄道の価値をいかに上げていくか、という命題を示す。「GOLDEN EXPERIENCE」は、TRAIN SUITE 四季島だけではなく、JR東日本、そして鉄道そのものを変えていくキーワードになるだろう。
TRAIN SUITE 四季島は、17組の乗客だけではなく、もっと大きなものを乗せて走っている。