乗客は1ツアー17組。採算は合うのか?

東北に光を当てる。それはJR東日本の使命だ。

「四季島のお客様は、1ツアーあたり17組です。しかし、この列車は、お乗りいただくお客様のためだけに走るわけではありません」(高橋氏)

JR東日本の利用客は1日1700万人。それに対して17組だけの列車。桁違いに人数が違う。車両の新造、上野駅の整備、クルーの人件費などもある。採算は合うのか。

「もちろん上場会社ですから、赤字の列車は作れません。しかも、この列車は売り上げよりも大きい価値を創造します」

TRAIN SUITE 四季島の専用車両「E001系」のデザインは工業デザイナーの奥山清行氏が担当した。東北に未来を、という願いを込めた斬新な姿だ。インテリアの素材もすべて東日本産。しかも世界から評価の高いものを使っている。

たとえば展望室のカーペット。「苔」という名前がある。踏むと苔のような感触だという。お客様には靴を脱いでくつろぐよう勧めている。製造は山形のオリエンタルカーペットが担当した。バチカンや迎賓館にも納めている会社だ。普通の家具屋では踏めない品。そのほか、食器も、寝具も、ひとつひとつの素材について、クルーはお客様に語れる知識を持っている。そのクルーの制服は東北の伝統的な“からむし織”をイメージした。

光がたっぷりと降り注ぐ展望車では、靴を脱いでリラックス。カーペットには「苔」という名前が付けられている。
TRAIN SUITE 四季島のスイートルーム。
インテリアはすべて東日本産。

氷は日光の天然氷で有名な四代目徳次郎。炭酸水は只見線の沿線、奥会津金山に湧く天然の炭酸水。ワインも日本製、ジンも国産。フードアドバイザーに頼らず、クルーがひとつひとつ生産者を訪ね歩いて選んだ。お客様にストーリーを語れるように。生産者の誇りを乗せるために。

「お客様に感じていただく。そして、メーカーにも、匠の技が世界一のクルーズトレインで採用されたと考えていただければ、そこにひとつの物語が生まれます」

そう言い切るからには、TRAIN SUITE 四季島が世界一であり続けなくてはいけない。自信だけではない、これは決意だ。

クルーの制服

乗客だけではなく、地域の人々と感動を共有する

17組の乗客に感動を提供するために、沿線地域の何百、何千もの人々をつないでいく。そのつながりに物語があり、感動がある。TRAIN SUITE 四季島が走ることが、地域の誇りになってほしい。そんな願いが東北産のこだわりになった。

世界一のクルーズトレインが街を走る。「いつか乗ってみたい」「仕事で関わりたい」となっていく。お年寄りが都会の孫に遊びに来てもらうきっかけになるかもしれない。

東日本大震災の50日後、新幹線の運転が再開したときも、「つばさ」が運行20周年を迎えたときも、告知しただけで、沿線には手を振る人々の姿があった。鉄道とは、地域の願い、誇りでもある。だからTRAIN SUITE 四季島の運転士、車掌、クルーは沿線の人々の情報を共有して、お客様にも伝え、全力で手を振る。速度を落とし、警笛で応じることもある。

列車の有名撮影地では撮り鉄さんにも全力で手を振る。それが本業ではないけれども、お客様と沿線の感動のために何ができるかを考えて、自然にそれができる。お客様が同じ空間で、こうしたつながりを積み重ねて感動が共鳴していく。その感動は、上野到着後、フェアウェルパーティの涙になる。1泊2日、2泊3日の旅のあと、上野駅に着いた乗客が本当に涙するというのだ。