着席できる通勤列車が増えている。その真打ちとも言えるのが、西武鉄道発案の「S-TRAIN」だ。平日は通勤用として所沢と豊洲を結び、休日は観光用に変身して、秩父と横浜中華街を結ぶ。このために西武鉄道はわざわざ新型車両まで開発した。そこまでして前例のない「4社線直通有料指定席列車」に挑んだ理由とは――。
ダイヤ改正初日のSトレイン元町・中華街行き1番列車(2017年3月25日撮影:岡崎利生)
■「S-TRAIN」 の気になるポイント
・東京メトロ副都心線、東急東横線、横浜高速鉄道みなとみらい線で初の指定席
・4社直通、休日は最長113.6km、2時間33分の長距離運行パターンもある
・平日と休日で運行ルートが異なる。通勤モードと行楽モードの二役
・経由する路線すべての価値を高める看板列車
・このために新型車両40000系導入という意気込み
・通勤電車時はロングシート、S-TRAINはクロスシートの可変座席
・トイレ、無料Wi-Fi、コンセント付き

3月末にデビューしたS-TRAINに乗ってみた

2017年3月25日にデビューした「S-TRAIN」は、西武鉄道、東京メトロ、東急電鉄、横浜高速鉄道が運行する全席指定の列車だ。平日は所沢駅(埼玉県)と豊洲駅(東京都)を結び、休日は西武秩父駅(埼玉県)と元町・中華街駅(神奈川県)を結ぶ。平日は確実に座れる通勤電車として、休日は自然豊かな観光地の秩父と、都市型観光地の横浜をつなぐ。

休日の経路は実に最長113.6km。かつては乗り換えが必要、いや、そもそも乗り継ごうとも思わなかった経路だろう。秩父にはしばらく行っていない。横浜中華街もご無沙汰だ。それが1日で、1本の列車で両方行ける。そんなS-TRAINに乗ってみた。

朝9時、上野発のJR高崎線で熊谷へ。秩父鉄道のSL「パレオエクスプレス」に乗り、三峰口駅に保存されている古い車両を見物し、遅めの昼飯にモツ焼きを食べて、西武鉄道直通電車で西武秩父駅へ。駅ビルの土産物屋を冷やかして、ここから17時05分発のS-TRAIN4号に乗車。乗り換えなしで元町・中華街駅まで乗り通す。到着は19時38分。ちょうど夕飯の頃合いだ。中華街で知人オススメの店で一献して締めくくった。昼間、秩父の山の中で遊び、晩飯は中華街。こんな遊び方、いままで想像もしなかった。

昼間は秩父で遊び、夜は横浜中華街でディナー。西武・東京メトロ・東急・横浜高速鉄道の4社の路線を直通運転するS-TRAINだからできる遊び方だ。

2時間33分の乗車は楽しかった。トイレもあるから安心だ。日の高い時期だから、車窓は秩父の新緑、武蔵野の街の夕暮れ。地下鉄区間の後、東横線区間は夜景だ。座席は2人がけの前向きシート。東急東横線で、指定席の前向きシートに乗れるなんて。東急沿線育ちの筆者にとって、新鮮で感慨深い経験だった。

前向きシートの指定席は、西武鉄道では特急「レッドアロー」で経験済み。東京メトロは千代田線に小田急電鉄のロマンスカーが乗り入れて経験済み。しかし、東急電鉄と横浜高速鉄道は指定席列車の経験がない。この2社の賛同を得るには苦労したのではないか。

S-TRAINを発案したのは西武鉄道だ。どのようにして直通先3社の同意を取り付けたか。そもそも、なぜS-TRAINが企画されたか。運行開始に至るまでの経緯などについて、西武鉄道株式会社、鉄道本部、計画管理部運行計画課 課長補佐の廣田欣史氏に伺った。