高山文彦
1958年、宮崎県高千穂町生まれ。法政大学文学部中退。『火花 北条民雄の生涯』(1999年刊)で第31回大宅壮一ノンフィクション賞と第22回講談社ノンフィクション賞を受賞。骨太のノンフィクションを数多く手掛ける。最新刊は『孤児たちの城 ジョセフィン・ベーカーと囚われた13人』(新潮社)。また、故郷の高千穂あまてらす鉄道(神話高千穂トロッコ鉄道から社名変更)の代表取締役として、高千穂線の復興、再開発に尽力している。道を歩けば牛も寄ってくるという地元の名士である。
ようこそ、高千穂へ! 空気も水も酒も人もいい、僕の故郷です。
今、僕は東京と高千穂を行ったり来たりで、ここへ戻ると自然と背筋が伸びて、飲んで食べて笑い語らうことになります。「神楽の館」は、なにしろ店の女性たちが元気で朗らか。温泉上がりにビールを飲み、囲炉裏に腰を据えてかっぽ鶏で高千穂産の焼酎。たまりません。高千穂牛を味わうのなら「田の花」へ。本来は野菜中心の店で、7品目のコースでもすっと入ります。どちらの店も食卓からの景色が抜群。風景も立派な一品ですね。
東京の仕事場で原稿を抱えているときの朝食はバナナ1本。昼は粥で、夜は野菜の鍋物で酒を少し。質素でしょう。でもこれが外へ出ると一変する。ここぞとばかりに飽食します。フランスの南西部へ取材に行ったとき、伝統的フレンチを堪能しまして、帰国すると体のいろいろな数値がずいぶんと上がっていました(笑)。旅先では食べることに気合いが入り、夕食のロケハンを昼からやったり。経験上、美味しい店は見ればわかる。百発百中です。物を書く人間は探求心が不可欠で、なんでもいいや、などと妥協をしてはいけません。
なにをどう食べるか。食に注目することで、その人の状況が見えてくる。僕の著作に食べるシーンが多いのも、そのせいでしょうか。