立川志の輔

1954年、富山県生まれ。83年、29歳で立川談志門下に入門。90年には文化庁芸術祭受賞、立川流真打ちに昇進する。2007年、文化庁芸術選奨の大衆芸能部門で文部科学大臣賞を受賞。当代きって“チケットが取れない噺家”。1カ月公演の渋谷「志の輔らくご in PARCO」(毎年1月)、新宿「志の輔らくご21世紀は21日」、横浜「志の輔 no にぎわい」、富山ではほぼ毎月、定例公演を行っている。また、14年目になるNHK「ためしてガッテン」の司会、ラジオのパーソナリティなど幅広く活躍中。


 

食べても何料理なのかよくわからないところがあるし、どこから集めてきたかわからない調度品が無造作に置かれているわ、色彩はめちゃくちゃだわ。そして流れる音楽はビートルズだったり。とにかくだだっ広くて仕切りも何もないのに、どこに座っていても落ち着く。そのうえ、何を出されてもおいしい。「開化亭」は、この程がよい感じが気に入っています。

出会いは10年ほど前、「広告批評」にいらした天野祐吉さんに連れてきていただいたのがきっかけです。本当に旨いものをよく知っている人ですから、ありがたい引き合わせでした。

この店でただ一つ決めていることは、落語を引きずらないということ。落語会の後は必ず打ち上げなので自由に飲める日はあまりないのですが、打ち上げには絶対に使いません。それでなくても四六時中が仕事。落語家には仕事でない時間はほぼありません。

でも、365日落語をやっていたら頭がおかしくなってしまいます。落語は「やりたい」と思って臨むペースが大切で、趣味的感覚が重要だと思います。

格好よくいえば落語家は芸術家。「芸」は才能などのことで、「術」は、いつも楽しい気分でしゃべれるように自分を調整する術に長けているという意味だと思っています。

でも、摂生はしません。自堕落ですから、酒は好きだし、煙草も飲む。だから次のライブをどんな調子で迎えることになるのか、楽しみであり、悩みでもあり、実はワクワクしているんです。まれに体調がものすごく悪く、気分も乗らない日があって、「さて、今日はどう乗り切りますか」と自身に問いかける。その瞬間だけプロになります(笑)。

ほんのちょっとでも戦っている姿は見せません。これも「術」。そのためにも、お客さんにはいい加減な商売だと思っていてほしいのですが、世の中のベクトルがおかしな方向に向かってしまい……落語家に清く正しく美しくを求めてくる。本来なら落語家が品行方正に生きているほうがニュースのハズ。世の中、清くなく美しくないニュースが多すぎるから、みんなくたびれて余裕がなくなっているのでしょう。痛し痒しの日本です。

そんな鬱屈を吹き飛ばしてくれるのが、「はま作」で楽しめるわが地元の味です。富山の本店は実家と500メートルくらいしか離れていず、僕が18年間食べ続けた味がここにはあります。富山湾のキトキトの魚が直接届くので季節ごとに足が向きますし、イカが最高に旨い。僕にとっては、故郷が歌舞伎座の裏にやってきた感じ。

贅沢でしょう。