長嶋一茂

1966年、東京都生まれ。88年立教大学卒業後、ドラフト1位でヤクルトスワローズに入団。93年読売巨人軍に移籍、96年に現役引退。その後はスポーツキャスターを務めながら俳優としても活動。2002年、映画初出演初主演の『ミスター・ルーキー』で報知映画賞新人賞、日本アカデミー賞新人賞を受賞。05年には読売巨人軍特別補佐に就任。08年3月、初の製作総指揮、主演を務める映画『ポストマン』公開。スポーツ番組やバラエティのコメンテーターをこなすなど、その活躍は多岐にわたっている。


 

野球をやめて空手を始めた頃でしょうか。30を過ぎて体が思うように動かなくなってしまった。それまでは、とにかく運動量が多く、エネルギーが欲しくて大食していました。一食に肉2~3kgなんて当たり前。いわゆるエンゲル係数が高い状態です。それを量を節制し、旬の食材を味わうようにシフトしました。魚や野菜を旬のタイミングで食べること。体がずいぶんと動くようになりました。

エンゲル係数という言葉、最近はあまり聞かれなくなりましたね。私はエンゲル係数は高いほうが絶対にいいと思う。やたらと食事にお金をかける、ということではなく、もっともっと食べ物に気を使おうという意味です。

量から質に変わる。人間にはそんな時期があると思うんですね。食事に限らず、仕事も人付き合いも。質がなんたるかは、ある程度量をこなさないと見えてきません。人一倍大食してきたことは、とてもいい経験だったと思います。

そういったわけで、40路にさしかかり、ますます食事にこだわるようになりました。そんな私が自信を持ってお勧めする2店です。

「堀兼」が素晴らしいのは、常に進化しているところ。私には飽きっぽいところがあって、いくら美味しくても続けて同じような料理を出されるとだめ。でもこの店は月に数回のペースで来ても、変化に富んだ季節感豊かな料理を食べさせてくれる。メニューの工夫にしても、若い板前の教育にしても、大将の気合が浸透しています。ここのカウンターで大将と話をしていると清々しい気持ちになります。

私はたいへんな蕎麦好きで、昼食はほとんど蕎麦でもいいくらい。「六本木 竹やぶ」も若い店主の心意気がいい。ここの田舎蕎麦が目当てなんですが、一品料理がなんでも美味しい。あまり飲めないお酒も、少しいただこうかという気になりますね。豆腐と板わさ以外は全部自家製です。

たまたまミシュランで星をもらうような店を紹介しましたが、高かろう美味かろう、とは思っていません。値段以上に美味しさと快適さがあります。逆に、値段の安いもの、シンプルな料理も大好きです。「卵かけご飯」は研究を重ね、極めたつもりです。米と卵がよければいいと思ったら大間違い。卵のかき回し方や醤油の垂らし具合など、気の使い方ひとつで味が全然違ってくる。中目黒「糸吉」、代官山「韻」、赤坂「古母里」、ぜひこの3店の卵かけご飯を食べてください。300円の料理だって美味しいものもあれば、美味しくないものもある。質の違いがしっかりとわかる。そんな男になるよう、精進しています。