また、北海道の地で試行錯誤しながら国際化を進めているのが函館新都市病院だ。04年にロシアとの貿易を専門に行っている商社・ピー・ジェイ・エルの山田紀子代表取締役からサハリン州の首都ユジノサハリンスクに住む患者を紹介されたことをきっかけに、ロシア人患者の治療を始めた。いまではサハリン州立病院、ユジノサハリンスク市立病院など極東ロシアにある5つの病院と提携している。

「当初はさまざまな問題が起きた。日本に来るビザを取得するための書類は全部こちらで作成し、現地に送って申請することにしている。しかし、郵便事情が悪く、途中で行方不明になってしまうことが何度もあった。そこで、ユジノサハリンスクにビジネスなどで渡航する人に託し、直接手渡してもらうようにするなどの工夫をしている」

ロシア語のホームページを作成する大堀秀実室長(左側)と海外事業室のスタッフ。

ロシア語のホームページを作成する大堀秀実室長(左側)と海外事業室のスタッフ。

こう語るのは事務次長として当初からロシア人患者の受け入れに立ち会い、06年に設けられた海外事業室の室長も務めている大堀秀実氏である。同室のスタッフは大堀室長を含め3名。そのうちの一人はサハリンで生まれ、現在は日本に帰化している韓国系の女性で、事務作業のかたわら通訳の仕事もこなす。

これまで130名強のロシア人患者が、脳神経内科や循環器内科などで治療を受けてきた。有明病院と同じように事前に医療費の見積もりを提示する。前納ではないが、これまで最後の支払いでトラブルになったことは一度もない。ロシア人患者の治療費は年間2000万~3000万円前後。海外事業室のコストを考えても、収支は若干のプラスだそうだ。

ロシア語のクリニカル・パス。

ロシア語のクリニカル・パス。

そうしたなかで生まれた目に見える国際化の一つに、ロシア語で表記した「クリニカル・パス」がある。いつ、どのような検査を行い、いつ説明をしてから治療に入るかなどのスケジュールを一覧表にしたもので、「自分の治療がどう進んでいくのかが一目で理解でき、とても安心してもらえる」と大堀室長はいう。

そして、函館新都市病院と同じようにPJLからの紹介でロシア人患者を受け入れるようになったのが神奈川県にある横浜市東部病院だ。07年3月のオープン以来、約30名の患者がロシアから訪れている。「息を止めて」というロシア語をあらかじめ録音しておきエックス線撮影の際に使ったり、「痛い」「だいじょうぶ」など患者の状態を文字で確認するプレートを用意している。これらはすべて現場から出たアイデアである。