189万円の「波動測定器」は官邸にあるか
転写水と聞いても、多くの人たちはいったい何のことかと思うだろうが、これはオカルトやスピリチュアリズムの世界ではよくみられるもので、人間の発する気をこめた水のことである。その水には、病を治したり、健康を増進したり、さらには幸福をもたらしたりといった効果があるとされるのである。
まったく非科学的なことだが、科学的であることを装った「疑似科学」を信奉する人たちは少なくない。江本氏は、2つの瓶にそれぞれ飯を入れ、片方には「ありがとう」と言い続け、もう片方には「ばかやろう」と言い続けると、後者は腐敗してしまうのに対して、前者からはよい香りが漂うようになるとも主張していた。
波動自体は、海や湖の表面に生まれる波のことであり、何ら特別な意味をもたない通常の自然現象である。ところがオカルトの世界では、物質の本質は実は波動であると考えられるようになった。
これは、素粒子物理学において、あらゆる物質には、「粒子」としての性格がある一方で、「波動」としての性格がある、とされていることがもとになっていると思われる。
粒子としての物質は、それを変容させることはできないが、波動なら何らかのエネルギーを与えることによってその実体を変えることができるのではないか。オカルトやスピリチュアリズムではそう考えるのである。
江本氏は、波動を測定し、それを転写することができるという波動測定器を開発し、販売していた。これは、現在も彼が立ち上げた会社で販売されている。最高級とされるものになると、半年間の研修料も含まれるものの、その価格は税込みで189万円である。
こうした装置の宣伝では、健康を増進する効果があるとするものもあり、それに対しては、東京都が警告を発している。果たして昭恵夫人がこの波動測定器を購入したかどうかはわからないが、転写水に言及している以上、首相官邸にそんな装置があったとしても不思議ではない。
その点は証明されていないが、昭恵夫人が波動理論の共鳴者であり、その思想を宣伝する役割を担っていることは間違いないであろう。
そこで思い出されるのが、経営コンサルタントとして一時名を馳せた船井幸雄氏のことである。船井氏も、江本氏と同様に2014年に亡くなっている。
船井氏は、京都大学農学部を卒業後、船井総合研究所というコンサルタント会社を立ち上げた。経営コンサルタントとしての船井氏が主張したのが、「地域一番店戦略」というものだった。これは、それぞれの地域において一番規模の大きな店を作り上げることが、認知度を上げることになり、もっとも効果的で効率的な商売が可能になるとするものである。この戦略は、中小企業主に支持され、船井氏の名声を高めることに貢献したが、百貨店のそごうなども、この地域一番点戦略をとり、床面積を広くすることに力を注いだ。
船井氏は、40代になると、波動ということにめざめ、波動についての研究会を組織し、そうした考え方を記した書物を数多く刊行するようになる。
そうなると、船井氏の周辺には、経営者だけではなく、オカルトやスピリチュアリズムに関心を寄せる人間たちが集まってくるようになる。しかも、船井総研主催で、「船井幸雄オープンワールド」といった催しを行うようになり、そこには、波動といったことを信じるような人々や団体が出展するようになった。